前編では、大規模修繕の主な発注方式と、なぜ管理会社やコンサルが談合・バックマージンに関与してしまうのか、その収益構造を見てきました。相場5,000万円の工事が、談合の仕組みの中では7,000万円近くまで膨らみかねないという、具体的な手口も確認しました。
今回の後編では、その構造を踏まえたうえで、管理組合が今すぐできる実践的な対策と、談合を機に注目される新しい発注方式、そして国や業界の制度面の動きを整理します。
| 1 | 「相見積もりを取ったから安心」の落とし穴 |
| 2 | 管理組合が今すぐ気をつけたい実践的ポイント |
| 3 | 今後さらに増えるであろう「オープンブック方式」のメリット・デメリット |
| 4 | 国・業界も、談合を受けて制度を見直し始めている |
| 5 | 深川・江東区のマンションが次の修繕までにできること |
「相見積もりを取ったから安心」の落とし穴
前編で見たとおり、コンサルタントが受注予定業者に有利な見積もりを仕込み、比較対象となる他社には割高な「当て馬」の見積もりを出させる手口があります。ここで多くの管理組合が取る自衛策が、「コンサルと関係のない業者にも独自に見積もりを取る」というものです。
しかし、これにも落とし穴があります。悪質なコンサルタントは、管理組合がそう動くことまで織り込んでいる場合があるという指摘です。管理組合が「関係のない業者」を探そうとしても、その業者選び自体をコンサルに相談してしまえば、実はその会社ともつながっていて、やはり高い見積もりを出すよう仕込まれていた、というケースもあり得ます。
つまり、「複数社から見積もりを取る」という行為そのものより、その業者を誰が選んだのか、コンサルや管理会社と本当に無関係と言えるのかを確認することの方が重要になります。この視点を持ったうえで、次の実践的なポイントを見ていきましょう。
管理組合が今すぐ気をつけたい実践的ポイント
専門家や国土交通省が示す対策を、管理組合の行動レベルに落とし込むと、次のようになります。
コンサル選定時に誓約書を求める。
「談合のあっせんやバックマージンの収受を行わない」という誓約書の提出を求めます。抑止力としての効果は限定的という指摘もありますが、心理的な牽制にはなります。契約書自体にバックマージン禁止・違反時の契約解除を明記しておくとより実効性が高まります。
報酬形態を確認する。
コンサル報酬が「工事金額の◯%」という歩合だけの場合、工事費が高くなるほどコンサルの取り分も増える構造になります。定額と成果報酬を組み合わせるなど、工事費の膨張に誘因が生じにくい形を検討する価値があります。
選定プロセスを住民に開示する。
入札公告や見積要領を明文化し、選定基準や評価方法を総会・住民に開示します。「誰が、どういう基準で決めたのか」が不透明だと、不適切な関係が生じやすくなります。
独立した第三者にセカンドオピニオンを求める。
管理会社やコンサルとは資本関係・人的関係のないマンション管理士、一級建築士などに、見積書や業者選定のプロセスをチェックしてもらいます。特定業者だけ極端に高い、複数社の金額が不自然に近い、といった点は第三者が指摘しやすいものです。
公的な相談窓口を活用する。
少しでも違和感があれば、公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターや、公益財団法人 マンション管理センターといった相談窓口を利用できます。国土交通省もこれらの窓口の活用を呼びかけています。
| 1 | 自分のマンションが今どの方式を採用しているか把握しているか 前回の修繕がどの方式で行われたか、議事録や契約書で確認を。 |
| 2 | 「独自に取った見積もり」の業者が、本当にコンサルと無関係か確認したか 業者選び自体をコンサルや管理会社に相談していないか、経緯を振り返ってみましょう。 |
| 3 | コンサル報酬が歩合だけの契約になっていないか 工事費が高いほどコンサルが得をする構造になっていないか確認を。 |
| 4 | 談合違約金特約条項を契約に盛り込めるか確認したか 国交省が2025年6月に推奨した条項。管理会社や設計事務所に相談を。 |
| 5 | 業者選定プロセスを住民に開示する仕組みがあるか 選定理由・比較表を総会資料として共有することが最大の抑止力になります。 |
| 6 | 決議要件の緩和を、拙速な業者決定の口実にしていないか 2026年4月の区分所有法改正で決議は通しやすくなりますが、プロセスの丁寧さは別問題です。 |
今後さらに増えるであろう「オープンブック方式」
前編では、現状「主流」となっている「責任施工方式」「設計監理方式」「管理会社元請け方式」「CM方式」の4つを詳しく見ました。ここからは、談合事件を機に改めて関心が高まっている、もう一つの方式を取り上げます。
オープンブック方式(価格開示方式/RM方式)
以前から一部で採用され、談合事件を機に改めて注目されているのが「オープンブック方式(価格開示方式)」です。海外では一般的なRM(リノベーション・マネジメント)方式の一種で、国内でも鹿島建物などが取り入れています。実務上はCM方式の応用形(アットリスクCM方式)と位置づけられることもあります。
施工者が材料費・労務費・諸経費といった工事原価をすべて管理組合側、あるいは第三者に開示し、その公正さを監査できるようにする仕組みです。通常の方式では「一式いくら」という総額の見積もりしか出てこないため、その内訳が適正かどうかを管理組合が検証するのは困難でした。オープンブック方式は、この「内訳のブラックボックス化」そのものにメスを入れる発想です。
メリット:工事原価が可視化されるため、水増しや不透明な利益の上乗せに気づきやすくなります。前編で見た「当て馬の見積もり」のような手口は、原価を突き合わせることで見抜きやすくなる可能性があります。
デメリット:次に見る通り、いくつかの構造的な弱点も抱えています。
ただし、オープンブック方式にも穴はある
万能な方式というわけではありません。いくつか無視できない弱点があります。
まず、報酬体系の問題です。施工者の報酬が「原価+一定率の手数料」で決まるコストプラスフィー契約になっている場合、原価が高くなるほど施工者の取り分も増えるため、コストを切り詰める動機がそもそも働きにくいという矛盾があります。上限価格(GMP)を別途設定しないと、総額が青天井になりかねません。
次に、開示された「原価」自体を検証する難しさです。領収書や請求書の束を渡されても、それが適正な単価なのか、下請け段階で水増しされていないかを、専門知識のない管理組合が見抜くのはほぼ不可能です。結局、監査を担う第三者(RMr/CMr)の目利きに頼ることになります。
そして最も本質的なのが、その監査役自体が施工会社と癒着するリスクです。これは前編で見た設計コンサルの構造とまったく同じ弱点で、オープンブック方式にすれば談合が起きなくなるという保証にはなりません。「チェックする人を誰がチェックするのか」という問題は、方式を変えても形を変えて残ります。
このほか、原価開示に対応できる施工会社がまだ限られていること、証憑書類の提出・確認という事務負担が増えること、下請け・孫請けの階層まで原価が本当に見えるとは限らないことも、実務上の課題として指摘されています。オープンブック方式は「特効薬」ではなく、GMPの設定・独立した監査体制・報酬形態の工夫とセットで初めて効果を発揮する、というのが実態に近いところです。
国・業界も、談合を受けて制度を見直し始めている
今回の談合事件を受けて、制度面でもいくつかの動きが出てきています。
談合違約金特約条項の推奨
国土交通省は2025年6月、マンション管理関連団体に対し、工事請負契約に「談合が発覚した場合は違約金を支払う」旨の条項を盛り込むよう推奨する通知を出しました。国の直轄工事ではすでに導入されている仕組みで、横浜市なども管理組合向けに同様の対策を呼びかけています。
区分所有法改正(2026年4月施行)
大規模修繕など区分所有権の処分を伴わない決議について、これまでの「全区分所有者の過半数」から「出席者の3分の2以上の賛成」で決議できるよう要件が緩和されました。所在不明の所有者を母数から除外できる仕組みも導入されています。合意形成のハードルが下がる分、業者選定のプロセスが拙速にならないよう、むしろ透明性の確保がこれまで以上に重要になると考えられます。
施工会社側のコンプライアンス対応
排除措置命令を受ける企業には、再発防止に向けた社内規程の整備や法令順守研修の実施などが求められる見通しです。管理組合としても、業者選定の際に「談合防止のためにどのような社内体制を取っているか」を尋ねてみる価値はあるでしょう。
これらはいずれも、談合そのものを完全になくす特効薬ではありません。ですが、「性善説」に頼らず、契約・法制度・企業側の体制という複数の層でチェックを重ねていく方向に、業界全体が動き始めていることは確かです。
深川・江東区のマンションが次の修繕までにできること
江東区は都内でも分譲マンションのストック戸数がトップクラスのエリアです。門前仲町・木場・清澄白河・東陽町周辺の深川エリアには1980年代から建ち始めたマンションが数多く、築20〜40年を迎える物件が目立ちます。第2回・第3回の大規模修繕が視野に入る時期で、次の工事に向けて発注方式そのものを見直すタイミングを迎えている管理組合も少なくないはずです。
江東区には「マンション計画修繕調査費助成制度」があり、建物診断費用の一部を区が補助しています。方式選びや業者選定に迷ったら、まずは区の住宅課へ相談してみるのも一つの手です。
🔗江東区・マンション計画修繕調査支援事業
株式会社トラストリーでは、中古マンションの売買・リフォームのほか、セカンドオピニオンのご相談を承っています。江東区内のマンションのことで、次の修繕に向けて少しでも不安があれば、お気軽にお問い合わせください。
編集後記
前編・後編を通じて見えてきたのは、発注方式の名前や仕組みそのものより、「誰が」「どんな基準で」業者を選び、その過程を住民にどう開示しているか、というプロセスに目を向けることの大切さでした。相見積もりも、オープンブック方式も、談合違約金条項も、それ単体では万能ではありません。複数の備えを重ねること、そして「任せきりにしない」という当事者意識こそが、私たちにできる一番の防御なのだと思います。
深川くらし編集部はそう考えています。
参考:国土交通省(2025年6月事務連絡)/横浜市マンション管理ポータルサイト/江東区マンション計画修繕調査支援要綱/鹿島建物「価格開示方式(RM方式)」/各種報道(毎日新聞・時事通信・日本経済新聞、2026年6月)
本記事は公開情報をもとに編集部が作成したものです。個別の企業・物件への評価を意図するものではありません。
よくある質問
Q. 管理組合はどんな対策を取ればいいですか?
コンサル選定時の誓約書、歩合だけに頼らない報酬形態、業者選定プロセスの住民への開示、第三者によるセカンドオピニオン、公的相談窓口の活用が有効です。
Q. オープンブック方式に弱点はありますか?
原価連動の報酬体系では逆にコスト削減の動機が働きにくく、監査役自体が癒着するリスクも残ります。上限価格の設定や独立監査とセットでの運用が必要です。
Q. 談合を受けて、制度面ではどんな変化がありますか?
談合違約金特約条項の導入推奨(2025年6月・国交省)、区分所有法改正による決議要件の緩和(2026年4月施行)、施工会社側のコンプライアンス体制強化などが進んでいます。



コメント