前回、大規模修繕工事をめぐる「🔗38社談合」の記事には、たくさんの反響をいただきました。修繕費用が上がり続けるなかで、「うちのマンションは大丈夫なのか」という関心の高さを改めて感じています。
今回いただいた声の中で多かったのが、「そもそも大規模修繕って、どうやって発注する仕組みなの?」「なぜ管理会社やコンサルがそんな不正に手を染めるの?」という疑問でした。
そこで今回は前後編の2回に分けて、この問題を掘り下げます。前編では、大規模修繕の発注方式の種類と、談合が生まれる構造的な背景を。後編では、管理組合が今すぐできる対策と、これから増えていくであろう新しい方式について整理します。
| 1 | 主流の4方式、それぞれのメリット・デメリット |
| 2 | 「安心」とされてきた設計監理方式にも死角があった |
| 3 | 管理会社・コンサルの収益構造に、不正が生まれる土壌がある |
| 4 | バックマージンの手口を、具体的な金額例で見る |
おさらい:38社談合、何が起きたか
2026年6月、公正取引委員会は関東のマンション大規模修繕工事をめぐる談合を認定し、施工会社36社と設計コンサルタント2社の合計38社に排除措置命令を出す方針を固めました。課徴金総額は約16億円、談合が認定された工事は100件を超えます。
ここで見過ごせないのは、談合の温床になったのが「設計監理方式」という、本来は透明性が高いとされてきた発注方式だったという点です。国土交通省の2021年度調査では、大規模修繕の8割がこの方式で発注されていたとされ、それだけ多くの管理組合が「コンサルが入っているから安心」と考えていたはずです。その前提そのものが揺らいだのが、今回の事件でした。
現状の発注方式、主要4パターン
大規模修繕の発注方式は、大きく次の4つに分けられます。
| 方式 | 概要 | メリット | デメリット・リスク |
| 責任施工方式 | 診断から設計・施工まで、施工会社1社に一任 | コンサル費用がかからない/窓口が一本化され話が早い | 設計と施工が同じ会社のため自己チェックになりがち。見積もりの妥当性を第三者が検証しづらい |
| 設計監理方式 | 施工会社とは別に設計コンサルタントと契約し、診断・設計・業者選定・工事監理を任せる | 設計と施工が分離され、ダブルチェックが働きやすい/複数社の競争入札で価格が下がりやすい | コンサル費用(工事費の5〜10%目安)が別途発生。今回の事件のように、コンサル自体が施工会社と結託するリスクがある |
| 管理会社元請け方式 | 日頃管理を委託している管理会社が元請けとなり、実際の工事は管理会社が選んだ下請け会社が行う | 普段のやり取りの延長で進められ、コミュニケーションが取りやすい | 中間マージンが発生し割高になりやすい。見積もり内訳が不透明になりがちで、管理会社と下請けの間のバックマージンが見えにくい |
| CM方式 (コンストラクション・マネジメント) |
CMr(コンストラクション・マネージャー)が管理組合側の立場で、設計・発注・工程・コストを一括してマネジメント | 業務が細分化され費用の透明性が高まりやすい。発注者側の代理人という位置づけが明確 | 日本ではまだ普及途上でCMrの経験・質にばらつきがある。導入実績のある会社が限られる |
ここからは、現状「主流」となっている4方式について、それぞれのメリット・デメリットをもう少し詳しく見ていきます(オープンブック方式など、談合を機にさらに広まりつつある方式は後編で詳しく取り上げます)。
① 責任施工方式
建物診断から設計・仕様書の作成、施工、引き渡しまでを、特定の施工会社1社に一任する方式です。管理組合はコンサルを介さず、建築士を抱える施工会社と直接契約します。
メリット:コンサルタント費用が発生しないため、総費用を抑えやすい方式です。窓口が施工会社1社に一本化されるため、意思疎通がスムーズで、計画的に工期を進めやすいという利点もあります。
デメリット:設計から施工まで同じ会社が担うため、いわば「自分で自分をチェックする」構造になり、第三者の目が入りにくくなります。工事内容と費用の内訳が不明瞭になりやすく、見積もりが妥当かどうかを管理組合が判断するのは容易ではありません。コスト削減のために仕様を落とすインセンティブが働きやすい点も見逃せません。
② 設計監理方式
施工会社とは別に、建築士事務所や設計コンサルタント会社を選定して契約する方式です。コンサルが建物診断・設計図書や仕様書の作成、施工業者の選定支援、工事期間中の監理までを担い、施工会社は施工そのものに専念します。国土交通省の2021年度調査では、大規模修繕の約8割がこの方式で発注されていました。
メリット:設計と施工が分離されるため、ダブルチェックが働きやすく、手抜きや過剰工事の余地が小さくなります。コンサルが複数の施工業者を競わせることで、競争原理が働き、価格が下がりやすいというのも本来の強みです。
デメリット:コンサルタント費用(工事費の5〜10%が目安)が別途発生し、小規模なマンションほど費用負担の割合が重くなります。そして前回の記事、および前編の前半で見てきた通り、本来「中立」であるべきコンサルが施工会社と結託すれば、ダブルチェックという建付けそのものが機能しなくなります。「設計監理方式だから安心」とは言えないことを、今回の事件は突きつけました。
③ 管理会社元請け方式
日頃マンションの管理を委託している管理会社が元請けとなり、実際の工事は管理会社が選定した下請けの施工会社が行う方式です。
メリット:普段からやり取りのある管理会社が窓口になるため、コミュニケーションが取りやすく、手続きの負担も比較的軽くなります。管理組合にとっては「勝手知ったる相手」に任せられる安心感があります。
デメリット:管理会社が元請けとして中間に入ることで、中間マージンや紹介料が発生し、施工業者と直接契約するよりも工事費が割高になりやすい構造があります。見積もりの内訳や透明性も低くなりがちで、管理会社と下請け業者の間のバックマージン関係は住民から最も見えにくいとも言われます。前編の前半で解説した「管理会社の収益構造」の問題が、最も直接的に表れやすい方式と言えるかもしれません。
④ CM方式(コンストラクション・マネジメント方式)
CMr(コンストラクション・マネージャー)が管理組合側の立場に立ち、設計事務所への発注、施工会社の選定、工程管理・コスト管理までを代理・調整する方式です。アメリカで発達した手法で、近年は国内でも採用例が増えています。設計監理方式の「コンサル」との違いは、CMrが発注者側の代理人であることが契約上より明確に位置づけられる点にあります。
メリット:業務がフェーズごとに細分化され、それぞれの費用が見えやすくなるため、コスト管理の透明性が高まりやすいとされます。CMrが「発注者側の代理人」という立場を契約上明確にすることで、設計監理方式で起きたような「中立のはずが施工会社側に付く」構図を作りにくくする狙いがあります。
デメリット:日本ではまだ普及の途上で、経験豊富なCMrや導入実績のある会社が限られています。CMr自体の質にばらつきがあり、報酬体系(工事費に連動する歩合制など)によっては、設計監理方式と同じ利益相反リスクが形を変えて生じ得る点には注意が必要です。「CM方式だから安心」とは言い切れません。
どの方式にも、それぞれ異なる形で談合・不正のリスクが潜んでいます。「この方式なら絶対安全」というものは存在しません。そして今回の事件が突きつけたのは、方式の名前よりも重要な問いです。なぜ、本来チェック役であるはずの管理会社やコンサルが、不正に手を染めてしまうのか。次の章で、その構造を見ていきます。
|
約8割
大規模修繕で設計監理方式が
採用されている割合(国交省2021年度調査) |
5〜10%
設計コンサルタント報酬の
一般的な相場(工事費に対する割合) |
10〜20%
悪質なケースで指摘される
バックマージンの相場 |
なぜこんなことが起きるのか ── 管理会社・コンサルの収益構造
談合やバックマージンの背景には、管理会社・コンサル業界の収益構造そのものが関わっています。
管理会社の主な収入源は、毎月の管理委託料です。しかし、この委託料だけでは十分な利益を確保しづらいと言われています。そこで一部の管理会社やコンサルは、大規模修繕工事の業者を「あっせん」することで収益を補おうとします。工事業者を紹介する見返りに、その業者から紹介料(バックマージン)を受け取る、という構造です。
このバックマージンは、最終的には工事の見積額に上乗せされる形で計上されます。つまり、管理組合が支払う修繕積立金の中から、住民が知らないうちに「紹介料」が支払われていることになるのです。
「破格に安いコンサル料」は、むしろ警戒すべきサインかもしれません。コンサルは、あとで業者から受け取るバックマージンを見込んで、コンサル業務自体を安値で請け負うケースがあると指摘されています。
手口を、具体的な金額例で見る
実際にどのような手口が指摘されているか、専門家の解説をもとに具体例で見てみましょう。
仮に、本来の相場が5,000万円の大規模修繕工事があったとします。コンサルタント経由でA社・B社・C社の3社から見積もりを取得し、あらかじめA社が受注するシナリオが組まれていたとします。
コンサルタントには工事金額の10〜20%程度のキックバックが入ると言われており、その分が上乗せされたA社の見積もりは5,500万〜7,000万円程度になります。比較対象として提出されるB社・C社の見積もりは、さらに高い8,000万〜9,000万円程度に設定されることもあります。
相場が5,000万円であることを知らない管理組合からすれば、3社とも高いには違いないものの、その中で一番安いA社を選んでしまう。「複数社から相見積もりを取って、きちんと比較検討した」というプロセスを踏んだつもりが、最初から金額設定そのものが操作されていたのでは意味がありません。
さらに厄介なのは、こうした手口を見抜こうとする管理組合の動きすら、悪質なコンサルには織り込み済みの場合があるという点です。「コンサルと関係のない業者にも見積もりを取ろう」と管理組合が動いても、その業者選び自体をコンサルに相談してしまうと、実はその会社ともつながっていて、やはり高い見積もりを出すよう仕込まれていた、というケースも指摘されています。これは後編で詳しく取り上げます。
前編のまとめ
今回整理したのは、大規模修繕の発注方式の全体像と、なぜ管理会社やコンサルが不正に関与してしまうのかという構造的な背景でした。ポイントは、方式そのものの良し悪しではなく、それを運用する人・会社の収益構造にこそ、不正が生まれる土壌があるという点です。
後編では、この構造を踏まえたうえで、管理組合が今すぐできる実践的な対策と、談合を機に注目される新しい発注方式(オープンブック方式など)、そして国や業界の制度面の動きを取り上げます。
【後編に続く】これからどう選ぶか」。大規模修繕、管理組合が気をつけるべき点と今後増える発注方式
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編集後記
「性善説」だけで大規模修繕に臨むのは、もう難しい時代になっているのかもしれません。ですが、悪意ある人ばかりでもないはずです。だからこそ、仕組みそのものを知り、どこにリスクが潜んでいるかを理解しておくことが、住民一人ひとりにできる備えなのだと思います。後編もぜひお読みください。
深川くらし編集部はそう考えています。
参考:国土交通省「マンション総合調査」(2021年度実施)/各種報道(毎日新聞・時事通信・日本経済新聞、2026年6月)/スマート修繕「大規模修繕の『バックマージン』問題とは」/クラセル「大規模修繕における管理会社のバックマージンについて」
本記事は公開情報をもとに編集部が作成したものです。個別の企業・物件への評価を意図するものではありません。
よくある質問
Q. 大規模修繕工事の発注方式にはどのような種類がありますか?
現状「主流」となっているのは「責任施工方式」「設計監理方式」「管理会社元請け方式」「CM方式」の4つです。国内では設計監理方式が約8割を占めますが、それぞれにメリットと談合・不正のリスクが異なります。談合を機に「オープンブック方式」も注目されており、詳しくは後編で解説します。
Q. なぜ管理会社やコンサルが不正に関与してしまうのですか?
管理委託料だけでは利益を確保しづらく、工事業者のあっせんで収益を補おうとする構造があるためです。紹介料(バックマージン)が工事費に上乗せされ、最終的に住民の修繕積立金から支払われる形になります。
Q. バックマージンの具体的な手口は?
受注予定業者の見積もりに10〜20%程度のキックバックを上乗せし、比較対象の他社にはさらに高い「当て馬」の見積もりを出させる手口が指摘されています。詳しい対策は後編で解説します。



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