最近、江東区でもよく見かけるようになった、大手デベロッパーが手掛ける、大規模な「定期借地権付き新築分譲マンション」。
その広がりは数字にも表れています。2025年の首都圏における定期借地権マンションの供給は1,502戸と過去最多を更新(不動産経済研究所)。価格高騰が続く中、大手が好立地の開発手法として積極的に採用し始めており、江東区を含む都内各所でその存在感が増しています。
モデルルームに一歩踏み入れると、その完成度に圧倒されます。豪華な設備、洗練されたインテリア、ブランドの重厚感。そして何より、周辺の所有権マンションより明らかに安い価格表。
「これは、お得かもしれない。」
その感覚、わかります。私も人間ですから。でも40年この仕事をしてきて、どうしても正直に言わずにいられないことがあります。
この契約の「その先」を、日本では誰もまだ経験していない。
定期借地権マンションの制度が始まって30年以上が経ちます。でも2026年現在、期間満了を迎えた物件は日本にまだ一件もありません。60年後・70年後に何が起きるか、誰も実際には知らないのです。
その事実を胸に置いた上で、この記事を一度読んで欲しい。魅力は確かにあリます。
でも「知らずに買う怖さ」も、同じくらい確かにある。ここではその両方を正直にお伝えします。
まず「仕組み」を正確に。定期借地権とは何か
定期借地権マンションとは、土地を「所有」するのではなく「借りる」契約の上に建つマンションです。土地の所有者(地主)から一定期間だけ土地を借り、その上に建てられた建物の区分所有権だけを購入します。
最大の特徴は「契約の更新ができない」こと。借地期間が満了すれば、建物を解体して更地にし、土地を地主に返さなければなりません。賃貸アパートと違うのは、「退去」で終わらず「解体」まで居住者側の責任になる点です。
📋 一般定期借地権の基本ルール
「期間が来たら、更地にして返す」。それだけのシンプルな約束
存続期間
最低50年以上。最近の新築は60〜70年が多い。ただし解体・明け渡し期間(1.5〜2年)が含まれるため、実際に住める年数はそれを差し引く。
更新
一切できない。普通借地権とは根本的に異なり、期間終了後に「もう少し住みたい」という交渉の余地は原則ない。
満了後
建物を解体して更地にして返還。解体費用は区分所有者が負担。資産価値はゼロになる。
1993年
定期借地権マンション
第一号が供給された年
1992年 借地借家法改正
0件
2026年現在、日本での
定期借地権マンション
期間満了事例
制度開始から33年。まだゼロ。
約80%
所有権マンションに対する
定期借地権マンションの
平均的な価格水準
国土交通省「定期借地権の解説」
✏️ 著者の所感
定期借地権マンションという選択肢が増えることは、私はいいことだと思っています。住まいの選び方が多様になるのは、社会全体にとってプラスです。ただ、この「0件」という数字は正直に受け止めてほしい。制度の設計書には書いてある。でも「生きた現実」はまだない。だからこそ、供給側の説明だけでなく、買い手自身が正しく理解した上で選んでほしいのです。
なぜ1992年に生まれたのか。定期借地権と「土地神話崩壊」の深い関係
定期借地権が突然生まれたわけではありません。その背景には、日本の土地をめぐる長い歴史と、バブルという特殊な時代があります。
📜 日本の定期借地権 誕生の背景
「土地神話」の時代から「利用へ」という転換
戦後〜1980年代:「土地神話」の時代
戦後の高度経済成長とともに地価は一貫して上昇。「土地を持てば必ず儲かる」という「土地神話」が生まれ、土地の所有権は最強の資産とされた。旧法下では一度貸した土地は事実上永久に返ってこないため、地主は土地を貸すことを嫌い、新規の借地供給はほぼ止まった。
1980年代後半:バブルで地価が「異常」な水準に
昭和58年頃から地価が急騰。バブルのピーク(平成2年)では首都圏のサラリーマンが都心にマイホームを買うためには、片道2時間以上かかる遠郊外まで行かなければならない事態に。「所有権住宅価格はサラリーマンの平均年収の5倍をはるかに超えた」と国土交通省が記録している。
1992年:借地借家法改正、定期借地権が誕生
「所有権なしに住宅を取得する新しい仕組み」として定期借地権が創設。バブル崩壊と重なったこのタイミングで「土地神話」も同時に崩壊しつつあり、「土地の所有にこだわらず、利用すればいい」という価値観への転換が始まった。定期借地権は「新しい時代にふさわしい選択」として注目された。
2001年:「土地白書」が価値観転換を公式に確認
平成13年の土地白書で、「土地は預貯金や株式より有利な資産とは思わない(38.8%)」が「そう思う(34.2%)」を初めて上回った。30年近く日本人を支配してきた土地神話の終わりが、統計でも確認された。
2020年代:価格高騰で再び注目される定期借地権
インフレと建設コスト上昇で所有権マンションの価格が再び一般層の手の届かない水準に。「少しでも安く都心に住みたい」というニーズが高まり、江東区を含む都内各所で大手による定期借地権マンションの供給が増えている。
💡 歴史から読み解くと見えてくること
定期借地権は「バブルで高くなりすぎた土地を所有しなくても住める仕組み」として生まれました。つまりその本質は最初から「所有ではなく利用」だったのです。
ところが今、制度誕生時の文脈を知らない世代がモデルルームに並んでいます。「新築」「大手ブランド」「割安価格」という入口だけを見て、「利用権の購入」という本質を理解しないまま決断しようとしていないか。そこを私は案じています。
✏️ 著者の所感
私はバブルの狂乱も、その崩壊も、現場で見てきました。定期借地権が生まれたのは「所有にこだわらなくていい」という、当時としては革新的な発想の転換からです。その精神は今も正しいと思っています。ただ、「選択肢が増えること」と「正しく理解して選ぶこと」は、別の話です。価格高騰で再び注目される今だからこそ、この制度が生まれた背景と本質を知った上で判断してほしいと思っています。
「安い」の正体。月々の支払いで比べると、数字は別の顔を見せる
定期借地権マンション最大の魅力は、物件価格の安さです。同条件の所有権マンションと比べて概ね2〜3割安い。この差は確かに大きく、魅力的に映ります。
でも、ここで必ず押さえておきたいことがあります。定期借地権マンションには、所有権マンションにはない追加コストが毎月かかります。しかもそれは、契約期間が終わるまで一切なくなりません。
💴 所有権マンションにはない、定期借地権固有の費用
買った後も、ずっとかかり続けるコスト
①
地代(月額)
土地を借りる対価として地主に毎月支払う賃料。月1万〜3万円程度が多い。2〜3年ごとに固定資産税評価額の変動に連動して改定されるため、将来の地価上昇で値上がりするリスクがある。
②
解体準備金(月額)
借地期間満了時に建物を解体するための費用積立。月3,000〜5,000円が多いが、新築時に一括100〜200万円を徴収するケースもある。通常の修繕積立金とは別に徴収される。
③
購入時の一時金
保証金・権利金・前払い賃料など名称はさまざま。保証金は期間満了時に返還されるが、権利金・前払い賃料は返還されない。重要事項説明書で必ず区別して確認を。
🏠 月々の支払い・総コスト比較シミュレーション(3パターン)
江東区・70㎡想定。江東区中古マンション平米単価111万円(2025年11月、マンションナビ調べ)をもとにトラストリー作成。
|
📋 定期借地権
新築マンション |
🔧 所有権中古
+リノベーション |
🏢 所有権
新築マンション |
| 物件価格(借入額) |
8,800万円
(所有権新築比約80%) |
物件7,500万円
+リノベ1,500万円
借入計9,000万円 |
1億1,000万円
(江東区好立地想定) |
| 月々のローン返済 |
約26.9万円 |
約27.6万円 |
約33.7万円 |
| 35年間の利息負担 |
約2,517万円 |
約2,574万円
※借入が多い分やや多い |
約3,146万円 |
| 地代+解体準備金(月) |
約3.5万円〜
(借地期間60〜70年
払い続け、値上がりも) |
なし |
なし |
| 管理費+修繕積立金(月) |
約4.0万円 |
約3.8万円 |
約4.0万円 |
| 月々の総支払い |
約34.4万円 |
約31.4万円
★月3万円少ない |
約37.7万円 |
| 35年間の総支払い |
約1億4,467万円 |
約1億3,170万円
★約1,300万円少ない |
約1億5,826万円 |
| 35年後の資産価値 |
残存約25〜35年
売却困難・ほぼゼロ |
管理良好なら
3,000万円前後も |
立地次第で
7,000万円前後も |
正味コスト
(35年総支払-残存資産) |
約1億4,467万円 |
約1億170万円
★約4,300万円有利 |
約8,826万円
資産が大きく残る |
※ 金利1.5%・返済期間35年・フルローンとして試算。地代・解体準備金は参考値。管理費等は物件によって異なります。35年後の資産価値は売却の保証ではなく参考想定値です。江東区中古マンション平米単価111万円(マンションナビ、2025年11月)をもとにトラストリー作成。
📊 「借入額が少ない=金利負担が軽い」は正しいか
定期借地権の「安さ」を、借入・金利の角度から見直す
定期借地権 vs 所有権新築
借入額は2,200万円少なく、月々のローンは約6.8万円少ない。これは確か。ただし地代+解体準備金で月3.5万円が加わり、差し引きの節約は月約3.3万円。ただし資産はゼロになる。
定期借地権 vs 所有権中古+リノベ
借入額は所有権中古の方が200万円多いが、地代+解体準備金がない分、月々の総支払いは所有権中古の方が約3万円少ない。35年間では約1,300万円の差になる。
つまり:「定期借地権は所有権より借入額が少なく金利負担が軽い」は、所有権新築と比べた場合には成立します。でも所有権中古+リノベと比べると、借入額は中古の方がわずかに多くても、地代・解体準備金がない分、月々の総支払いは中古の方が少なくなります。さらに35年後に資産が残るかどうかの差も加わる。「安いから借入が少ない」という定期借地権のメリットは、比較対象と時間軸によって大きく変わるのです。
さらに見落とされがちな点があります。地代は35年のローンが終わっても、借地期間(60〜70年)が満了するまで払い続けます。しかも地代は固定ではありません。一般的に3年ごとに固定資産税評価額の変動に連動して改定されるため、地価が上がれば地代も上がります。有楽町線延伸をはじめ再開発が進む江東区では、この点が特に重要です。
対して所有権中古の場合、ローン返済額は変わりません。そしてローン返済がそのまま土地への投資に変わります。地価が上がれば中古の資産価値も上がる。定期借地権の地代は払うほどコストが増える可能性があるのに対し、所有権は地価上昇の恩恵を受ける側に立てる。この非対称性を、ぜひ頭に置いておいてください。
📌 地代は「今の金額のまま」ではない
地代は一般的に3年ごとに固定資産税評価額に連動して改定されます。江東区エリアでは有楽町線延伸をはじめとした再開発が進んでいます。地価が上がれば地代も上がる。インフレが続けば、60年間の地代総額は当初試算を大幅に超える可能性があります。
ある試算では、50年間支払い続けた地代の累計額が土地更地価格の75〜90%に相当するとも言われています。「土地を買わなかった分が安くなる」という感覚は、長期では大幅に薄れていくことを知っておいてください。
まず、この問いに答えてください。あなたは「所有」したいのか、「利用」したいのか
定期借地権マンションの本質を一言で言うなら、こうなります。
“
資産(所有)ではなく、最高の立地を長期でレンタルする(利用)。
それが、定期借地権マンションという住まい方の正体です。
この視点に立つと、多くのことが整理されます。「なぜ期間が終われば返すのか」「なぜ地代がかかるのか」「なぜ資産価値が減り続けるのか」。すべて、本質的には「借りている」からです。
でも、ここで一つ問い返してほしいことがあります。
💡 実は、所有権の中古マンションでも同じことができます
「最高の立地に、長期で住む」。それは定期借地権でなければ実現できないわけではありません。所有権中古マンションを選べば、同じような立地に、同じように長く住むことができます。
そして決定的な違いがあります。
所有権中古なら
その立地に「利用」しながら、土地と建物が「資産」として手元に残る。インフレで地価が上がれば、その恩恵も受けられる。期間が来ても「退去してください」とは誰も言わない。
定期借地権なら
その立地に「利用」できるが、土地は最初から地主のもの。期間が終われば資産はゼロになる。地代は払い続けても、何も積み上がらない。
「立地の利用」は両方で実現できます。違うのは、その間に資産が育つかどうかです。
🔑 3つの選択肢を「所有」と「利用」で整理する
「立地の利用」はどの選択肢でも実現できる。違うのは、その先です
📋 定期借地権新築(利用のみ)
最高の立地に住める。でも土地は地主のもの。期間が終われば退去・解体。地代を払い続けても資産は積み上がらない。「利用」だけで「所有」はない。
🔧 所有権中古+リノベ(利用+所有)
同じ立地に住める。しかも土地も建物も自分のもの。住みながら資産が育つ可能性がある。「利用」と「所有」を同時に実現できる。
🏢 所有権新築(利用+所有)
立地・空間ともに申し分ない。土地も建物も所有。ただし価格が高く、一般層には手が届きにくい水準に。
💡 「最高の立地に住む」という目的は、3つの選択肢すべてで達成できます。定期借地権だけが特別な選択肢ではありません。違いは「その間・その後に資産が残るかどうか」と「月々の総コスト」です。その2点を比べた上で、どれが自分のライフプランに合うかを判断してください。
✏️ 著者の所感
「安いから」という理由だけで選ぼうとしている方に、私は必ずこう聞きます。「あなたは60年後、この土地に何も残らなくていいですか?」と。その答えが「はい、自分の人生で使い切ればいい」なら、定期借地権という選択は筋が通っています。この制度には確かな合理性がある。問題は「知った上で選ぶかどうか」です。供給側の説明だけでなく、この問いを自分に向けてから決断してほしいと思います。
世界は知っている。「長期リース」が当たり前の国々と、そこで起きていること
「土地を長期で借りて住む」という形態は、日本では珍しく感じるかもしれません。でも世界を見渡すと、それが当たり前の国がいくつもあります。そして重要なのは、それらの国で「長期リース住宅の満了」がどういう問題を引き起こしているかが、すでに見えてきているということです。
🇸🇬
SINGAPORE / HDB
シンガポール:99年リースで国民の8割が暮らす
シンガポールでは国民の約77%が政府公営住宅「HDB」に居住しています。HDBはすべて99年リースで、期間満了後は土地を国に返還する仕組みです。「土地を借りて住む」ことが社会の標準であり、国民も「長期賃借」という感覚で購入しています。
ただし、シンガポールでもHDB制度が始まった1960年から99年に達した物件はまだ存在しません。期間満了後に何が起きるかは、シンガポール国民も経験していないのです。
「持ち家」という言葉を使いながら、本質は「99年の長期賃借権」。日本の定期借地権と構造は同じ。
🇬🇧
UNITED KINGDOM / LEASEHOLD
イギリス:リースホールドが生んだ社会問題
イギリスではマンション(フラット)の多くが「リースホールド」、つまり土地の借地権付きで売られてきました。250年・999年といった長期リースも多く、「実質的な所有」として扱われてきた歴史があります。
ところが近年、この制度が深刻な問題を引き起こしました。残存期間が短くなった物件が売れなくなる、リース延長に数百万円が必要になる、地代が突然倍増するなど。イギリス政府は2024年にリースホールド改革法を成立させ、制度の抜本的な見直しを迫られました。
制度は完璧に設計されていても、数十年後に問題が噴出した実例。日本への示唆は大きい。
🇭🇰
HONG KONG / GOVERNMENT LEASE
香港:2047年問題が不動産市場を揺るがす
香港では土地はすべて政府所有で、住宅はリース(政府から借りた土地の上に建つ)です。1997年の返還時、多くの土地リースの期限が「2047年まで」と設定されました。
今、2047年が近づくにつれて住宅ローンの審査が厳格化され、残存期間の短い物件が売りにくくなるという問題が現実に起きています。香港大学の教授は「2047年問題は、数年後のモーゲージ(住宅ローン)に今すでに影響している」と警告しています。
期限の見えてきた借地権は、ローンにも売却にも現実の支障をきたす。日本の定期借地権も、残存期間が短くなれば同じ現象が起きる。
💡 3カ国の事例が教えてくれること
シンガポール・イギリス・香港。制度も社会背景も違いますが、共通するのは「長期リース住宅の満了問題は、始まってから数十年経過した後に初めて顕在化する」ということです。
日本の定期借地権マンションは1993年スタート。最初の満了が来るのはおそくとも2043〜2053年頃。そのとき、日本でも似た問題が起きないという保証はどこにもありません。これらの国の教訓を、私たちは他人事として見てはいけないと思っています。
✏️ 著者の所感
シンガポール・イギリス・香港、いずれの国も制度設計は真剣に行われ、社会に定着しています。長期リース住宅という選択肢自体は、世界的に見て決して特異なものではありません。ただ、どの国でも「数十年後に何が起きるか」は、始めた時には誰も分からなかった。日本の定期借地権も、その問いにまだ答えが出ていない段階にあります。だからこそ正しい理解が必要だと、私は思っています。
「前例ゼロ」という現実。日本では60年後の未来を、まだ誰も経験していない
ここが、私が最も伝えたい核心です。
日本では、定期借地権の歴史がまだ浅い。だからデメリットの本質が、まだ誰にも見えていないのです。
買い手だけではありません。モデルルームで説明する営業担当者も、仲介する不動産会社も、融資する金融機関も、そして私たちのような不動産のプロも。誰一人として「期間満了後に何が起きるか」を実際に経験していません。制度設計の上では理路整然としています。でも現実に何が起きるかは、まだ誰も知らないのです。
定期借地権マンションは1992年の借地借家法改正で生まれ、1993年に最初の物件が分譲されました。最短でも50年の存続期間があるため、2026年現在、日本ではまだ一件も「期間満了」を経験した定期借地権マンションがありません。
これは何を意味するか。
❓ 「前例ゼロ」が意味する4つの未知
誰も実際には経験していないこと
❶ 解体費用が本当に積立金で賄えるか
建設コスト・人件費は今後も上昇が予想されます。30〜40年後の解体工事費が現在の積立計画で足りるかどうかは、誰も保証できません。不足した場合は区分所有者への追加一時金徴収になる可能性があります。
❷ 全員合意で円滑に解体・退去が進むか
数十年後、「退去したくない」「費用が払えない」「相続でもめている」などの住民が出た場合、管理組合として解体プロセスを進める難しさは未知数です。マンションの建替え問題が長期化している現実を見れば、容易ではないことは想像できます。
❸ 高齢になってからの住み替えが本当にできるか
今40歳で60年契約を購入すれば、満了は100歳。現実的には、70〜80代で「退去してください」という通告を受けることになります。その年齢での住み替えがどれほど大変か。資金面だけでなく、体力的・精神的な負担は計り知れません。
❹ 数十年後の不動産市場で「売れる」かどうか
残存期間が20年を切ると買い手がほぼいなくなると言われています。「途中で売ればいい」という出口戦略が通じるのは、残存期間に余裕があるうちだけ。しかし人生のいつ「売りたい」事情が生じるかは、誰にも予測できません。
✏️ 著者の所感
定期借地権マンションという選択肢が増えること自体は、私はいいことだと思っています。バブル崩壊後に「所有にこだわらない住まい方」を制度として生み出したことは、日本の不動産の歴史にとって意味のある転換でした。
ただ、供給する側の説明だけで判断するのは危うい。バブル、リーマンショック、東日本大震災、コロナなど。40年の現場経験の中で「誰も予測しなかった現実」を何度も見てきました。60年後・70年後の日本がどうなっているか、正直、誰も分かりません。その不確実性を知った上で、自分の言葉で「これでいい」と言えるかどうか。それが判断の出発点だと思っています。
それでも検討するなら。モデルルームで必ず確認すべき「5つの本質的な問い」
定期借地権マンションを否定しているわけではありません。向いている人には、合理的な選択肢になり得ます。ただ、決断するなら「正しく理解した上で」であってほしい。そのために、モデルルームの魅力的な空間の中でも冷静でいられるよう、この5つを頭に入れておいてください。
📋 モデルルームで冷静に問うべき5つの質問
Q1
自分は何歳のときに満了を迎えるか。「60〜70年後」を西暦と年齢に置き換えて書いてみてください。そのとき、あなたの子どもは何歳ですか。住む場所を失う年齢として、それは受け入れられますか。
Q2
月々の総支払いを書面で出してもらう。ローン返済+管理費+修繕積立金+地代+解体準備金の合計を、すべて書いてもらう。「大体○万円」という口頭回答は受け取らない。
Q3
地代の改定ルールは契約書に明文化されているか。「固定資産税評価額の何%」「上限はあるか」。口頭の説明ではなく、契約書の該当条項を確認する。再開発で地価が上がれば、地代も上がります。
Q4
解体費用の積立が不足した場合、誰がどう負担するか。30〜40年後の建設コストを今の試算で賄えるかは不明です。不足時のルールが契約書に書かれているかを確認してください。
Q5
「途中で売る」場合の条件を具体的に確認する。地主の承諾は必要か、譲渡承諾料はいくらか。残存期間が何年あれば、住宅ローンを組める買い手が現れるか。「売れる」と「売れるかもしれない」は全く違います。
💡 これらの質問に書面で答えてもらえない場合、その場での返答を保留してください。数千万円の決断です。1〜2日置いてから、別の視点で検討する時間を必ず作ることが大事です。
📖 あわせて読みたい
「もう少し検討します」が言えずに決断してしまう。不動産購入の「その場の空気」に流されないために。
比べてみてほしい。「所有権の中古+リノベーション」という選択肢
「定期借地権の新築は気になるけれど、所有権の新築は高すぎる」という方に、私がいつもお伝えする選択肢があります。
管理の良い所有権中古マンション+リノベーション。
「築年数が古いから不安」という方もいますが、国土交通省の研究では鉄筋コンクリート造の物理的寿命は117年と推計されています。適切に管理されたマンションは長く価値を持ち続けます。そして何より、所有権である限り、資産として残り続ける。60年後に「更地にして返してください」とは言われません。
🏠 3つの選択肢を冷静に比べる
|
📋 定期借地権
新築マンション |
🏢 所有権
新築マンション |
🔧 所有権中古
+リノベーション |
| 物件価格 |
中(所有権比 約80%) |
高 |
低〜中 |
| 月々ランニングコスト |
高め
(地代・解体準備金が追加) |
標準 |
標準
(修繕積立金の確認は必須) |
| 将来の資産性 |
期間終了でゼロ |
高い |
管理次第で維持・向上も |
| 売却・相続の自由度 |
低
(残存期間に大きく左右) |
高い |
高い |
| 空間の自分仕様度 |
デベロッパー仕様 |
デベロッパー仕様 |
フルカスタム可能 |
| 「前例ゼロ」のリスク |
あり
(60〜70年後が未知) |
なし |
なし |
※ 上記は一般的な傾向の整理であり、個別物件によって大きく異なります。
💡 「物件価格+リノベ費用」でトータルで比べてほしい
たとえば「物件6,500万円+リノベ1,500万円=8,000万円」と「定期借地権新築8,000万円」を比べてみてください。前者は自分仕様の空間を好立地に持ちながら、将来の売却も視野に入ります。後者は新築のきれいさはありますが、60〜70年後に資産はゼロになります。
比べるべきは「価格」だけではなく、「その先の人生全体の中で、どちらが自分に合っているか」です。
この選択肢が増えることは、いいことです。ただ、正しく理解した上で選んでほしい
定期借地権マンションを「否定したい」わけではありません。選択肢が増えることは、住まい探しをする人にとって本来いいことです。バブル崩壊後に「土地の所有にこだわらない住まい方」を制度として生み出したことは、日本の不動産史にとって意味のある一歩でした。
日本には根強い「新築神話」があります。立派なモデルルーム、洗練されたホームページ、大手ブランドの安心感——それらは確かに魅力的で、人を動かす力があります。私自身も、あの空間に立つと感じるものがあります。
一方で、中古マンションはどうか。内見に行けば、生活の痕跡があります。壁の傷、日当たりの実態、隣の音、管理の行き届き具合。華やかな演出はありませんが、「等身大の現実」がそこにあります。その現実を自分の目で確かめられることが、中古の本当の強さだと私は思っています。
新築の定期借地権マンションを検討するなら、ぜひ一度、同じエリアの所有権中古マンションにも足を運んでみてください。モデルルームの夢から少し離れた場所に、もう一つの答えが見つかることがあります。
ただ、一つお願いがあります。
“
供給側の説明だけで判断しないでください。
この契約の本質を、自分の言葉で説明できるようになってから決断してほしいのです。
モデルルームは「夢を見せる場所」です。豪華な内装、洗練されたプレゼン、「残りわずか」という言葉。それらは魅力を最大化するために設計されています。それ自体は悪いことではありません。でも買い手の側が、同じ熱量で「正しい知識」を持っていなければ、判断のバランスが崩れます。
この記事を読んだ今、一度だけ立ち止まって問いかけてみてください。「私はこの契約が『所有』ではなく『利用』だと理解しているか。60年後に何が起きるかを、誰もまだ経験していないと知っているか」と。
✉️ 著者からのメッセージ
定期借地権マンションという選択肢が増えることは、私はいいことだと思っています。ただ、「選べること」と「正しく選べること」は別の話です。
そしてもう一つ、正直に言わなければならないことがあります。日本では歴史が浅いぶん、デメリットの本質がまだ誰にも見えていません。買い手だけでなく、売り手も、プロも、私自身も含めて。
だからこそ、供給側から渡された情報だけで決めるのではなく、この記事で触れたような「制度の本質・コストの実態・前例ゼロという現実・海外の教訓」を踏まえた上で、ご自身の言葉で「これでいい」と言えるかどうかを確かめてから判断してほしい。それが40年この仕事をしてきた私の、正直なお願いです。
私たちだからできること。「どちらが正解か」を数字と言葉で一緒に考えます
「定期借地権の新築と、所有権の中古。どちらが自分に合っているか」。この問いへの答えは、ライフプランと資金計画の掛け算で決まります。そしてその掛け算を、一緒に行う専門家が私たちです。
STRENGTH 01
月々の総コストを、数字で比較します
定期借地権マンションと所有権中古マンションを、地代・解体準備金・リノベ費用まで含めたトータルコストで比較します。「感覚」ではなく「数字」で判断できる材料をご提供します。
STRENGTH 02
管理状態の良い中古物件を、一緒に探します
修繕積立金・長期修繕計画・管理組合の実態まで調査し「管理が良い物件」かどうかを一緒に判断します。「深川たてもの相談所」として管理組合支援も行う当社ならではの知見です。
STRENGTH 03
売買・リノベ・管理を一気通貫でサポート
物件探しからリノベーション計画・施工管理・購入後の管理組合サポートまで。深川・清澄白河エリアでの豊富な実績を持つ専門家が伴走します。
TRUSTORY × 深川くらし
「定期借地権か、所有権中古か」
数字と言葉で一緒に考えましょう
月々の総コスト比較・ライフプランに合う物件探し・リノベーション計画まで、
購入前のすべての疑問に、40年のキャリアでお答えします。
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Q. 定期借地権マンションと所有権マンションの月々の費用はどのくらい違いますか?
A. 物件価格は所有権の約80〜85%程度と安い一方、地代(月1〜3万円)と解体準備金(月3,000〜5,000円)が追加でかかります。ある試算では物件価格差1,200万円があっても、月々の支払い合計はほぼ同等になります。物件価格だけでなく月々の総支払額で必ず比較してください。
Q. 定期借地権マンションは期間が終わったらどうなりますか?
A. 借地期間が満了すると契約は終了し、更新できません。満了の数年前から退去スケジュールが通達され、1.5〜2年かけて建物を解体して更地で地主に返還します。資産価値はゼロになります。なお2026年現在、日本ではまだ期間満了を迎えた定期借地権マンションはゼロです。
Q. 定期借地権マンションで住宅ローンは組めますか?
A. 新築時は対応金融機関があり、ローンを組むことは可能です。ただし担保評価が所有権の半分以下になるケースも多く、融資額が制限されることがあります。また残存期間を超えるローン期間は設定できないため、将来売却する際の次の買い手がローンを組める期間も限られます。事前に複数の金融機関への相談が必須です。
Q. 定期借地権マンションを売却したいときはどうすればいいですか?
A. 残存期間が長いうちに動くことが最大のポイントです。残存期間が短くなるほど買い手は急減し、残存20年を切ると実質的に売却困難になります。また売却には地主の承諾が必要で、譲渡承諾料が発生するケースもあります。購入時から「出口戦略」を明確にしておくことが不可欠です。
Q. 定期借地権マンションに向いているのはどんな人ですか?
A. 住む期間と目的が明確で、資産として残すことを考えていない人に向いています。ただし前提として、60〜70年後の未来を誰も予測できないという事実があります。制度開始から33年が経った今も日本では期間満了事例がゼロ。「前例のない契約」であることを理解した上で選んでください。
Q. 所有権の中古マンションと定期借地権の新築マンション、どちらがいいですか?
A. 一概には比較できませんが、「管理の良い所有権中古マンション+リノベーション」は、資産性を持ちながら好立地に自分仕様の空間を作れる選択肢です。どちらが正解かはライフプラン次第ですが、正しく数字で比較した上で決断してほしいというのが40年のキャリアからの願いです。ご相談はいつでも承っています。
著者:柴田光治
株式会社トラストリー 代表取締役 / 深川くらし 編集長 / 宅地建物取引士・2級FP技能士
不動産・建設業界歴40年超。バブル崩壊・リーマンショック・東日本大震災を経験。「深川たてもの相談所」を運営し、管理組合運営・大規模修繕工事へのアドバイスも手掛ける。江東区・深川エリアの住まいと暮らしを発信するウェブメディア「深川くらし」編集長として、正しい知識に基づく住まい選びの普及に取り組んでいる。「知らずに買う怖さ」を誰よりも知るプロとして、定期借地権を含む不動産選びの相談に40年のキャリアで向き合っている。
本コラムは不動産購入を検討されている方への情報提供を目的としております。統計データは各掲載元の公開情報に基づきますが、最新情報は各機関のウェブサイトでご確認ください。月々支払い額の試算はあくまで参考値であり、個別の物件・金融機関の条件によって大きく異なります。個別の物件判断については専門家へのご相談をお勧めします。
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