2026年7月、東京都の中古マンション市場に関する二つの重要なデータが相次いで発表されました。江東区でこの仕事をしている身として、正直ほっとした部分があります。今日はこの二つのニュースを手がかりに、いま住まい選びをどう考えればいいか、日頃お客様とお話ししている内容も交えてお伝えします。
| 1 | レインズ・東京カンテイ、二つのデータが示す「潮目」 |
| 2 | プロの視点:二つの指標をどう読むか |
| 3 | 価格が落ち着くことは、なぜ悪いニュースではないのか |
| 4 | 「オリンピック後は下がる」という思い込みの正体 |
| 5 | 実需で選ぶなら、意識すべきこと |
| 6 | 今回のニュースをどう活かすか |
二つのデータが示す「潮目」
一つ目は、7月10日に東日本レインズ(公益財団法人東日本不動産流通機構)が発表した数字です。東京都の中古マンション成約単価は前年同月比でマイナスに転じました。これは実に6年2か月ぶりのことです。
二つ目は、7月23日に東京カンテイが発表したデータです。東京23区の中古マンション70㎡価格は13か月連続で上昇を続けてきましたが、2026年6月にはついに前月比で下落しました。
| 東京都 成約単価 | ▲0.1% |
| 都心3区 成約単価 | ▲4.0% |
| 都心3区 在庫件数 | +44.8% |
| 都心3区 成約件数 | ▲27.1% |
| 70㎡価格(5月→6月) | 12,849→12,741万円 |
| 流通戸数(総計・6月) | 14,428戸 |
| 価格改定シェア | 46.7% |
| 値下げ率 | ▲6.1% |
二つの調査機関の視点は違いますが、示している方向は同じです。「上げ続けてきた相場に、ようやくブレーキがかかり始めた」ということです。
プロの視点:二つの指標をどう読むか
不動産の実務に携わっていると、この二つの指標の性格の違いに気づきます。東日本レインズの成約単価は、実際に売買契約が成立した価格の集計であるため、市場心理よりも1〜2か月ほど遅れて動く「事後」の指標です。一方、東京カンテイの70㎡価格は、売り出し中の物件も含めた流通ベースの指標で、売主の値付け行動やライバル物件の増減をより早く映し出します。
今回はこの性格の異なる二つの指標が、同じタイミングで下向きのサインを見せました。片方だけであれば一時的なブレとも考えられますが、事後指標と先行指標が揃って同じ方向を示しているという点に、今回のニュースの重みがあると私は見ています。加えて、東京23区の価格改定シェアが46.7%まで上昇している点も見逃せません。これは継続して売り出されている住戸のうち半数近くが、直近3か月以内に一度は値下げしているということです。売主側の強気姿勢に変化が出始めているサインだと捉えています。
これは悪いニュースではない
これだけ聞くと「ついに下落が始まったか」と身構える方もいるかもしれません。ですが私は、これは悪いニュースではないと感じています。むしろ、いいニュースだと思っています。
上がり続けるということは、普通に働いて普通に暮らしている人が、普通の家を買えなくなるということです。
ここ数年の東京の中古マンション市場は、正直そういう状態に近づいていました。今回の二つのデータは、行き過ぎた価格に少しブレーキがかかった、という程度のものだと捉えています。
とはいえ、これで3年前の水準まで下がるとは考えていません。建築費も人件費も資材価格も上がったままですし、世の中全体がインフレ基調にある以上、「昔の値段に戻る」という予測は立てにくいというのが実感です。在庫が積み上がり、値下げする売主が増えているとはいえ、下落幅自体はまだ緩やかです。
「オリンピック後は下がる」という思い込みの正体
こういう話をお客様としていると、面白いことに気づきます。東京オリンピックの頃、「大会が終われば不動産価格は下がるはずだ」と多くの方が口にしていました。ところが実際には、ご存知の通りコロナ禍を経てむしろ大きく上昇しました。
そもそも「オリンピック後は不動産価格が下がる」という説自体、過去のデータで裏付けられているわけではありません。1996年アトランタ、2000年シドニー、2004年アテネなど、主要な開催国の多くで大会後に住宅価格が大きく下落した例は確認されていません(2012年ロンドンは大会前の金融危機の影響で下落しましたが、これは五輪自体が原因ではありません)。それでも「五輪後は下がる」という言説が広く信じられていたこと自体、メディアの論調をそのまま鵜呑みにすることの怖さを物語っています。
当時これほどの値上がりを言い当てていた専門家は、私の知る限りほとんどいませんでした。メディアの論調も、当たらないことのほうが多かったように思います。それでも今なお、当時のまま「いずれ下がる」という感覚を持ち続けている方は少なくありません。つまり、プロでも読み違える世界です。将来の値動きを正確に当てることは、誰にもできません。だからこそ、購入を考えるときの軸を変える必要があると、私はいつもお伝えしています。
「うちの希望条件だと、今買うべきか迷っている」
そんな段階でのご相談も歓迎しています。
実需で選ぶなら、意識すべきこと
実需で購入する不動産を、投機の目線で選ぶことはおすすめしていません。地方にお住まいの方の多くは、家を買うときに「値上がりするはずだ」とは考えていないはずです。それでもそこで日々の暮らしを大切にし、豊かな人生を送っています。東京の住まい選びも、本来はそれと同じでいいはずです。
ただし一つだけ、譲れない条件があります。それは「下がりにくい物件を選ぶ」ということです。値上がりを狙わなくても、資産として大きく目減りしない立地・築年数・管理状態の物件を選んでおけば、暮らしながら安心して住み続けられます。
もう一つ気をつけたいのが、修繕にお金のかかる物件です。今は資材費も人件費も高騰している時代ですから、大規模修繕や設備更新にかかる費用は、以前とは比べものにならないほど膨らんでいます。管理費や修繕積立金が割安に見える物件ほど、将来その分の負担が重くのしかかってくることもあるので、見た目の安さだけで判断しないほうがいいと思っています。
もちろん、ランニングコストが多少かかる物件であっても、それを上回る魅力があるなら悪い選択ではありません。眺望が良い、立地が抜群、間取りが暮らしやすいなど、住んでいて満足できる理由がはっきりしているなら、燃費の悪さは十分に補えます。大切なのは、コストと魅力のバランスを自分の目で見極めることです。
今回のニュースをどう活かすか
今回のようにデータが少し軟化した局面は、価格の乱高下に振り回されず、本来の住まい選びの基準に立ち返るいい機会だと思っています。相場が読めない以上、「もう少し待てば下がるかもしれない」という考え方は、実はあまり意味を持ちません。むしろ、暮らしたい家、下がりにくい家に出会えたタイミングこそが、買い時なのだと思います。
株式会社トラストリーでは、江東区・深川エリアを中心に、実需目線での中古マンション選びをお手伝いしています。相場や資金計画のご質問だけでも構いません。
編集後記
相場の先行きは、プロでも正確には読み切れません。だからこそ大切なのは「いつ下がるか」を当てにいくことではなく、下がりにくい物件を見極める視点を持って、暮らしたいと思えるタイミングで動くことなのだと思います。
出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏中古マンション市況データ」(2026年7月10日発表)/株式会社東京カンテイ「中古マンション価格と各指標の推移」(2026年7月23日発表)/オリンピック開催国の住宅価格に関する分析(不動産投資TIMES)
本記事は公開情報および自社の実務経験をもとに執筆したものです。個別物件の将来の価格動向を保証するものではありません。
よくある質問
Q. 東京都の中古マンション価格は今後下がっていきますか?
短期的には都心3区を中心に価格の伸びが一服し、在庫増加や成約件数の減少が続く可能性があります。ただし建築費・人件費などのコスト構造が変わらない限り、数年前の水準まで大きく下落するとは考えにくいというのが実務上の見立てです。
Q. 成約単価と東京カンテイの70㎡価格は何が違うのですか?
東日本レインズの成約単価は実際に契約が成立した価格をもとにした事後の指標で、市場心理よりやや遅れて動きます。東京カンテイの70㎡価格は売り出し中の物件も含む流通ベースの指標で、売主の値付け行動をより早く反映します。
Q. 「オリンピック後は下がる」と聞いていたのに、なぜ上がり続けたのですか?
そもそも過去のデータでは、主要な開催国の多くで大会後に住宅価格が大きく下落した例は確認されていません。コロナ禍の低金利政策や資材・人件費の高騰、都心回帰などが重なり、東京でも上昇が続きました。
Q. 修繕積立金が安い物件は買わないほうがいいですか?
一概に避けるべきとは言えませんが、資材費・人件費の高騰で将来の値上げや一時金徴収のリスクが高まっています。長期修繕計画と積立金の推移を必ず確認しましょう。
Q. 実需目線で購入する場合、いつ買うのがベストですか?
値下がりを待つより、暮らしたいと思える物件に出会い、資産として大きく目減りしにくい条件を満たしているタイミングを買い時と考えるのが実務的な判断基準です。
Q. 下がりにくい物件はどうやって見極めればいいですか?
立地条件に加え、管理組合の運営状況、修繕積立金の水準、大規模修繕の実施履歴を確認しましょう。エリアの相場や再開発計画を知る地元の不動産会社に相談することも有効です。



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