清澄白河に工房を構える、椎名切子(GLASS-LAB)。1950年創業「椎名硝子加工所」の流れを汲んだ、70年以上の歴史あるガラス加工専門店です。世界最高峰の高い加工技術を持つ工房として高い注目を集めている一方、その代表取締役を務める椎名隆行さんは、深川エリアを盛り上げるイベントやプロジェクトのリーダーとして、地元の方々から愛される存在でもあります。今回は、深川のまちを愛するひとりとして、椎名隆行さんに、まちの変化と魅力について、お話をうかがいました。
GLASS-LAB株式会社
代表取締役
椎名隆行さん
–– まずは椎名切子と椎名さんのお仕事について、教えてください。
椎名切子は、1950年に祖父がガラス加工業を創業したところからスタートしました。現在は、父と弟、スタッフ2人、私の5人でガラス加工業を営んでいます。加工を担当するのは主に父と弟で、私の肩書きは「江戸切子プロデューサー」です。椎名切子の技術を生かして企業や一般の方とオリジナル商品を開発したり、江戸切子の技術や文化をプロモーションするためのマーケティング活動を行っています。
photo:椎名切子の特徴とも言えるふたつの技術、それは「平切子」と「サンドブラスト」。「平切子」は、江戸切子の製法のひとつで、その名のとおり、ガラスを平らに面で削る技術です。全国でも平切子を施せる職人は非常に少ないんだとか。一方「サンドブラスト」は、エアコンプレッサーで細かい砂を吹き付け、文字や模様を彫刻する技術。0.09mmの線も再現できる椎名切子のサンドブラストは、唯一無二の精細なデザインを実現します
–– 椎名さんは、子どもの頃から家族の仕事を見て育ってこられたと思いますが、職人を目指す道ではなく、なぜ「プロデューサー」を選ばれたんですか?
高校生の頃は、おこづかい目当てに、よく父たちの作業の手伝いをしていたんです。アルバイトで出来る加工なんて大した仕事もなく、サンドブラストを使ったシンプルな作業の繰り返しで。これがやっていくうちに、眠くなっちゃうんですよ。一方で、作業の合間に、お客さんが来ると、頼まれてもいないのにあれこれ喋って接客をしちゃう。終わるとしぶしぶ作業に戻って…の繰り返し。ぶっちゃけていえば、単純作業がものすごく苦手だったんです(笑)。
–– 自分には外交的な活動のほうが向いているのでは、と思ったわけですね。
そうなんです。親戚たちにも「営業に向いている」と言われたこともあって、職人の道は早々に諦めてしまいました。それで、大学を出てからは家業を継がず、不動産販売会社に就職したんです。実は、不動産業界へ進んだのも確固たる目標があったわけではなく、本当にたまたまで。28歳で不動産ポータルサイトを運営する会社に転職したのですが、そこで数々の出会いを重ねて人生設計を考えるようになったのです。一番大きなきっかけは、恩師ともいえる上司が病気で亡くなったことでした。限られたこれからの時間をどう使うか? 悩んだ末に、36歳で起業することを決めました。
これまでの広告やIT、営業の知識を活かして新しいことにチャレンジできるんじゃないかと。それで立ち上げたのが、家業と自分の武器を組み合わせた「椎名切子」だったんです。
–– なるほど、そういう経緯でこのまちで商売を始めたんですね。椎名さんは、小さい頃からまちの変化を見てきたと思います。昔と今とで変化したところはありますか?
このあたりの風景はガラッと変わりましたよね。昔は材木店がたくさんあって、この工房の前も材木店だったんですよ。大きく変わったといえば、ブルーボトルコーヒーができた頃からですかね。すでにある素敵なお店に加えて、新しいお店が続々とできて、人の流れも変わったと思います。深川エリアに興味を持って、別の土地から引っ越してくる人もずいぶん増えたんじゃないでしょうか。
逆に変わらないといえば「人とのつながり」かな。このあたりに暮らしている私よりも上の世代の人たちって、小さい頃からずっと関わり合っているせいか「近所の人」というよりも、家族に近い関係なんですよ。不思議な話ですが、大人になってから祭りやイベントをきっかけに生まれた新しいコミュニティも、やっぱり「ただの近所の人」におさまりきらない家族的な関係なんですよね。
–– 椎名さんといえば、やっぱりお祭りのイメージです。
お祭りは、大好きですね。このあたりでは、3年に1度行われる富岡八幡宮の例大祭で、町内会ごとにお神輿を担ぐんですけど、そのお神輿を担ぎ手を増やすことが、個人的な活動目標のひとつになっています。
お神輿1基に必要な人手って、大体400〜500人なんです。だから、380年続いている私たちのお神輿でも、担ぎ手が一人になったら途絶えてしまう可能性がある。それって寂しいことですし、単純に、みんなで一緒に何かをやり遂げるのって楽しいじゃないですか。だから、新しくこのまちにやってきた人たちも、お神輿を担いでほしいなと思っているんです。とはいえ、いきなり町内会に飛び込むのはハードルが高いだろうから、その橋渡し的な役割をしたい思いで、これまでいろんなイベントを仕掛けてきました。
–– 新しく深川へやってきた人たちや、深川のまちのために展開してきたイベント(活動)があれば教えてください。
6年ほど前、深川エリアで商売を営む人やお神輿を担ぐ人たちと関わるきっかけになれば…という思いからトークイベント「コウトーク」を企画し、月に一度開催していました。これが発端となって、2017年には、まち歩きイベント「深川ヒトトナリ」を企画しました。今も運営メンバーをバトンタッチしながら、イベントが続いています。最近だと、共同運営者(合同会社カツギテ)として関わっている駅前のシェアスペース「NAGAYA清澄白河駅前」で不定期に交流イベントを開催しています。
会社と家の行き来だけじゃ生まれない、出会いのきっかけをつくりたい。新しくやってきた人たちと、すでにまちに根ざしている人たちの橋渡しをしたい。そしてその先に、お神輿を担ぐという選択肢が生まれたら嬉しい。そういう思いが私の活動に共通しています。
「NAGAYA清澄白河駅前」について詳しく知りたい方はこちら ↓ ↓
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–– 椎名さんが運営に携わっているイベント(活動)で、最近のイチオシがあれば教えてください。
そうですね。今アツイのは、江東区の夢の島公園がホームのラグビーチーム「清水建設 江東ブルーシャークス」かな。「NAGAYA清澄白河」のオンラインイベントで知り合った人が関わっていて、まわり回って「江戸切子の組合と、一緒に何かPRできないか」と私のもとに話が飛び込んできたんです。今どうしたら盛り上がるか一生懸命考えているところなんですけど、今年4月の試合では会場の来場者数最高記録を更新したり、ちょっとずつアツくなってきてるところなんですよ。深川エリアにお住まいの方はぜひ一度、試合に来てみてください。
–– では、これから挑戦してみたいことは?
過去に椎名切子としてミラノサローネに出展したことがあるんですけど、あのイベントって会場だけでなくまち全体がテーマパークみたいになるんですよね。それをマネして「平野サローネ」なんて、まち全体を巻き込んだイベントができたらおもしろいなー、とか(笑)。あとは、この辺りには「ラボ」と名のつく店舗が多いので、深川のまちを「ラボのまち」としてメディアに売り出せないかな、 なんて目論んでます。
–– ありがとうございます。では最後に、リフォーム不動産に期待することを教えてください。
もうすでに実践されていますが、他の不動産屋とさらなる差別化を図ってほしいですね。Webメディアの「深川くらし」の取り組みも、他と異なるポイントですよね。まちや施設を紹介するにとどまらず、まちの人の繋がりを直接紹介できる不動産屋って、これまでにない強みじゃないですか。大手チェーンや昔ながらの不動産屋のシステマティックなコミュニケーション、その真逆を突き進んでほしいです。
椎名切子
住所:〒135-0023 東京都江東区平野1-13-11
Web:https://glasslab.official.ec
世界にひとつしかないカスタマイズグラス 今や下町の人気エリアとなって、新しいお店が続々と出店する「清澄白河」に、1950年から3代続くガラス加工場がある。 その名は「椎名硝子加工場」 伝統的な技法の「江戸切子」は有名だが、こちらの加工場は「平切子」という技法を得意とし、贈り物にも最適な文字やイ...
ライターの鳩さんが、清澄白河で中古マンション購入からリノベーション、実際に暮らすまでを綴った「リアル体験記」は、以下のリンクからご覧ください。
◆ リアル体験記【中古マンション購入編】
◆ リアル体験記【リノベーション編】