深川くらし編集長コラム 全3回連載 第1話
潮目が変わった不動産市場で ~これからの住まい選びと、生き残る不動産会社の条件~
この記事のポイント
- 首都圏の新築マンションは2026年上半期に平均1億円を超えましたが、8月には前年より5.4%下がり、息切れの兆しが出ています
- 中古マンションは、新たに売り出された物件の平均単価が成約物件の平均を約4割上回り、1年前の約15%から差が大きく広がりました
- 東京都の中古マンション成約件数は2026年8月に前年比18.7%減と、過去1年で最も少なくなりました
- 日銀は2026年9月に政策金利を1.25%へ引き上げ、住宅ローンの返済額にも影響が出はじめています
- 「今、買う・売る・待つ」には、それぞれメリットとデメリットがあります。両方を知ったうえで判断することが大切です
不動産業界の「イケイケの時代」は、2026年に入って終わりを迎えました。
価格はまだ高い。けれど買える人が減り、売れ残る物件が積み上がり、金利は31年ぶりの水準まで上がっています。
この連載では全3回にわたり、潮目が変わった市場で不動産会社とお客様に何が求められるのかを考えていきます。第1話は、まず市場の現実を数字で確かめるところから始めます。
書き始める前に、ひとつ約束をさせてください。
この連載では、良い話だけでなく、都合の悪い話も正直に書きます。
どんな物件にもデメリットがあるように、どんな市場にもリスクがあります。それを知ったうえで判断していただくことが、何より大切だと考えているからです。
新築:一般の手が届かない価格へ、そして息切れ
新築マンションは「普通の会社員が買うもの」ではなくなりつつあります。2026年上半期の首都圏の平均価格は1億135万円と、上半期で初めて1億円を超えました。東京23区に限れば1億4,249万円です。
値上がりの主因は、人手不足と資材高による建築費の上昇です。土地も建物も高くなり、デベロッパーは供給を絞っています。2025年度の首都圏の発売戸数は2万1,659戸と、統計を取り始めた1973年度以降で最も少なくなりました。
ただし、ここに来て息切れの兆しも見えています。
- 2026年8月の首都圏平均価格は9,770万円で、前年同月より5.4%下がりました。㎡単価は16カ月ぶりの下落です。
- 発売した月に売れた割合(初月契約率)は61.1%で、好不調の目安とされる70%を6カ月続けて下回っています。
- デベロッパーへの調査でも、都心6区で続いていた価格上昇に一服感が出ています。
7月には23区の単月平均が2億6,520万円という記録的な数字も出ました。けれどこれは港区などの高額タワーマンションが押し上げたもので、実際に住まいを探す人の実感とはかけ離れています。平均値の見出しだけで市場を判断しないこと。数字の読み方ひとつで、見える景色は大きく変わります。
中古:開いたままの「ワニの口」と、細る取引
中古マンション市場では、売り手の期待と買い手の現実が大きくすれ違っています。売り出し価格と成約価格の差は、グラフにするとワニが口を開けたような形になることから「ワニの口」と呼ばれます。

出典:東日本不動産流通機構「季報 Market Watch」2025年度(新規登録と成約の㎡単価)。2021・2022年度の新規登録は集計条件の変更後の数値
2015年度から2024年度まで、新たに売り出された物件と成約した物件の平均㎡単価の差は、おおむね1割前後で推移してきました。2023年度には成約のほうが高くなった年もあります。ところが2025年度、売り出し側だけが前年度より26%も上がり、差は約2割に開きました。月ごとに見ると、2026年7月には差が約4割に達しています。わずか1年余りで、売り手の希望と買い手が払える水準の溝が大きく開いたことになります。
ただし、これは売り出し物件と成約物件それぞれの平均を比べた数字です。一つひとつの物件が4割値下げして売れている、という意味ではありません。高すぎる価格の物件ほど売れ残り、手頃な物件から先に売れていく。その結果として平均の差が広がっている、と読むのが正確です。成約㎡単価そのものも、2026年5月に73カ月ぶりの下落に転じました。
東京都に絞ると、取引の細り方はさらにはっきりします。2026年8月の成約件数は1,562件で、前年同月と18.7%減りました。都内の6エリアすべてで前年・前月を下回り、過去1年で最も少ない水準です。一方で在庫は2万8,082件と8カ月連続で増えています。
売却を考える方にとって、これは耳の痛い話です。「近所のあの部屋がこの値段で出ているから」という感覚で価格を決めると、売れ残る可能性が高い市場になっています。参考にすべきは売り出し価格ではなく、実際に売れた価格です。
なお、中古戸建てはやや違う動きをしています。2026年5月の首都圏の成約価格は4,215万円で、5カ月連続の上昇でした。マンションが高くなりすぎた結果、広さや価格の面で戸建てに目を向ける人が増えているとみられます。ただし東京都区部の戸建ては成約件数が前年より大きく減っており、「戸建てなら安心」とも言い切れません。
金利:31年ぶりの「金利のある世界」
住まい選びの前提が、静かに、しかし確実に変わりました。日銀は2026年6月に政策金利を1%へ、9月には1.25%へ引き上げました。1995年以来の水準です。
民間の予測では、2026年12月に1.5%、2027年初めに1.75%へ上がるとの見方があります。住宅ローンの変動金利は、新規の借り入れでも1%台前半の商品が増えてきました。
金利の変化が家計にどう響くか、5,000万円を35年・元利均等で借りた場合で試算しました。
金利が0.5%から2.0%に上がると、毎月の返済は約3.6万円、35年間の利息は約1,500万円増えます。低金利の時代に「借りられる額」で予算を決めた方ほど、この差は重くのしかかります。
変動金利には、今の金利が低いというはっきりしたメリットがあります。同時に、将来の返済額が読めないというデメリットもあります。どちらが良いかは、家計の余力と、金利が上がったときに耐えられるかどうかで決まります。
※試算は概算です。実際の返済額は金融機関や借り入れ条件によって異なります。
業界の内側:この数年に何が起きていたか
業界の一員として正直に言うと、この数年は、不動産会社にとって「売るのが比較的簡単な時代」でした。価格は上がり続け、金融機関は住宅ローンを積極的に出し、購入者のマインドも高い。出てくる物件はほぼ何でも売れました。
強いていえば、物件の動きが早く、同じ物件に何件も申し込みが入るため、囲い込みなども頻繁に行われていたことです。
そのような状況の中で、業界には三つの変化が起きていました。
1. 大手への情報集中
優良な売り物件の情報は大手仲介に集まり、右から左へ流すだけで手数料が積み上がりました。物件そのものが営業をしてくれた時代です。
2. プレーヤーの急増
融資の追い風を受け、買取再販業者などが次々と参入しました。23区の再販マンションの新規売り出しは2024年に前年比22%増と急増し、2025年は2%減と頭打ちになりました。首都圏の築31年以上の中古マンション広告では、買取再販物件の割合が2019年の約3割から2025年4月には4割超まで広がっています。
3. 営業の「軽量化」
売れる市場では、深い知識がなくても契約に至ります。住宅ローンの仕組みをよく理解しないまま契約まで進める若手営業も、珍しくなくなりました。
その裏で置き去りにされたのが、本当に住まいを必要とするお客様です。価格は実需の手が届かない水準に上がり、「買いたいのに買えない」人が増えていきました。
追い風が止んだ今、業界の選別が始まっています。2025年に休廃業や倒産で市場から退いた不動産会社は2,136社と、過去10年で最多。一方で、売買を主とする上位4%の大手が売上の約8割を占めています。
もっとも、2026年上半期の倒産件数では、不動産業は主要7業種で唯一前年を下回り、淘汰はまだ統計にはっきり表れていません。けれど、現状のような取引の急減と金利の上昇が続けば、これからの数年で選別は一気に進むと考えています。
今、買う・売る・待つ:それぞれのメリットとデメリット
「今は買い時ですか?」と聞かれることがよくあります。正直にお答えすると、誰にとっても正しい答えはありません。どの選択にも、メリットとデメリットがあるからです。
大切なのは、市場の予想を当てることではありません。ご自身の家族構成、収入、何年住むつもりか、金利が上がっても返せるか。そうした事情と照らし合わせて、それぞれのデメリットを受け入れられるかどうかで判断することです。
もし不動産会社から「今が絶対の買い時です」「この価格でもすぐ売れます」とだけ言われたら、一度立ち止まってください。
デメリットを語らない説明は、
判断に必要な材料が半分欠けています。
住まいのことで迷っている、すべての方へ
これから家を買おうとしている方、今の住まいを売るか迷っている方、そして同じ業界で働く皆さん。
市場の先行きを正確に当てられる人はいません。私たちにできるのは、良いことも悪いことも含めて、判断に必要な材料をすべてお伝えすることだけです。
この記事が、数字に振り回されず、ご自身の暮らしに合った選択をするための一助になれば幸いです。
次回 第2話「潮目が変わった今、本当に必要な不動産会社とは」
価格は高止まりし、取引は細り、金利は上がっている。数字が示すのは、もう「物件を流すだけ」では通用しない市場です。次回は、私たちトラストリーが大切にしている基準をお話しします。それは、友達や親族に家を勧めるときと同じ気持ちで、良いことも悪いこともすべてお伝えすること。ときには「この物件はお勧めできません」と申し上げることも含めてです。どうぞお楽しみに。
よくある質問
Q. 2026年、東京のマンション価格は下がっていますか?
A. 高い水準のまま、上昇に一服感が出ている段階です。首都圏の新築マンションは2026年8月の平均価格が9,770万円で、前年同月より5.4%下がりました。首都圏の中古マンションは、成約㎡単価が2026年5月に73カ月ぶりに下落しました。東京都の2026年8月の中古マンション成約価格は6,826万円で、前年とほぼ同じ水準です。
Q. 不動産の「ワニの口」とは何ですか?
A. 売り出し価格と実際の成約価格の差が広がっている状態のことです。2本の価格の線をグラフにすると、ワニが口を開けたような形になることから、こう呼ばれます。2026年7月の首都圏中古マンションでは、新たに売り出された物件の平均㎡単価が117.86万円、成約物件の平均が84.17万円で、約4割の差がありました。1年前は約15%でした。ただし平均同士の比較で、同じ物件がその分値下げされているわけではありません。
Q. 日銀の利上げで、住宅ローンの返済はどれくらい増えますか?
A. 5,000万円を35年・元利均等で借りた場合の概算では、金利0.5%なら毎月約13万円、1.0%なら約14.1万円、2.0%なら約16.6万円です。日銀は2026年9月に政策金利を1.25%へ引き上げており、変動金利で借りている方は、金融機関ごとの見直し時期に合わせて返済額が変わる可能性があります。
Q. 今は家の買い時ですか?
A. 誰にとっても正しい答えはありません。今は在庫が増えて価格交渉の余地がある一方、価格は歴史的な高水準で、金利も上がっています。待てば価格が下がるという保証もありません。家族構成、収入、住む年数、金利が上がっても返済できるかどうかを踏まえ、メリットとデメリットの両方を比べて判断することをおすすめします。
Q. マンションを売るとき、売り出し価格はどう決めればよいですか?
A. 近所で売り出されている物件の価格ではなく、実際に売れた価格(成約価格)を参考にすることが大切です。今の市場では売り出し価格と成約価格に大きな差があり、売り出し価格を基準にすると売れ残る可能性が高くなります。
Q. 買取再販物件とは何ですか?
A. 不動産会社が中古住宅を買い取り、リフォームやリノベーションをしたうえで販売する物件です。内装が新しく、すぐに住めるというメリットがあります。一方で、買い取りや工事の費用、業者の利益が価格に含まれているため、同じ条件の物件を自分で買ってリフォームするより割高になる場合もあります。
Q. トラストリーと「深川くらし」はどんな会社・メディアですか?
A. 株式会社トラストリーは、東京・江東区深川を拠点に、中古マンションの仲介とリノベーションを手がける、豊かな暮らしをデザインする「地域価値創造企業」です。「深川くらし」は同社が運営する地域メディアで、深川の暮らし、まち、人の魅力を発信しています。
出典
- 首都圏マンション、初の1億円超 上半期(共同通信/熊本日日新聞、2026年7月21日)
- 23区マンション価格2・6億円 7月(共同通信/熊本日日新聞、2026年8月20日)
- 8月のマンション市場動向・首都圏(野村の仲介+、2026年9月18日)
- 2025年度の首都圏マンション発売戸数(ロイター/ニューズウィーク日本版)
- 2026年度上期 デベロッパー調査速報(三菱UFJ信託銀行 MUFG不動産研究所、2026年8月21日)
- 季報 Market Watch 2025年度(東日本不動産流通機構)
- 月例速報 Market Watch 2026年7月度(東日本不動産流通機構)
- 2026年8月の東京都の中古マンション価格(ダイヤモンド不動産研究所、2026年9月15日)
- 首都圏不動産マーケットレポート 2026年5月(東急リバブル)
- 日銀金融政策決定会合:1.25%へ利上げ(りそな銀行、2026年9月18日)
- 日銀9月会合の評価と先行き見通し(大和総研、2026年9月18日)
- 2025年「不動産業」動向調査(東京商工リサーチ)
- 東京23区の再販マンション動向(公募ガイド、2026年3月14日、福嶋総研調べ)
- マンション選びは3択の時代に(東洋経済オンライン、2025年6月14日、LIFULL HOME’S調べ)
- 2026年上半期の企業倒産(Web担当者Forum、2026年7月14日、帝国データバンク調べ)
このコラムを書いた人
柴田 光治 株式会社トラストリー 代表取締役
豊かな暮らしをデザインする「地域価値創造企業」株式会社トラストリーの代表。東京・江東区深川で「TRUSTORY fukagawa studio」と地域メディア「深川くらし」を運営。中古マンションの仲介とリノベーションを通じて、”豊かな暮らし”を提案しています。



コメント