深川くらし 編集長コラム 全3回連載 第2話
潮目が変わった不動産市場で ~これからの住まい選びと、生き残る不動産会社の条件~
この記事のポイント
- メリットだけを語る営業が多いのは、成功報酬や件数評価といった業界の仕組みがそうさせやすいからです
- どんな物件にもデメリットがあります。修繕積立金、管理、耐震基準、災害リスク、将来の売りやすさなどは、特に見落とされがちです
- デメリットを知ったうえで納得できるなら背中を押し、暮らしに合わないなら「お勧めできません」とお伝えします
- 売却でも同じです。高すぎる査定は売主の時間と機会を奪います。2025年1月からはレインズへの取引状況の登録が義務になりました
- AIが情報を担う時代に、人が担うのは「判断」と「覚悟」です
第1話では、都内の不動産市場で「何でも売れた時代」が終わり、潮目が変わりつつあることを、数字で確かめました。価格は高止まりし、売り手の希望と買い手が払える水準の溝は1年余りで大きく開き、金利は31年ぶりの水準まで上がっています。
では、こんな時代に本当に必要な不動産会社とは、どんな会社なのでしょうか。私たちの答えは、とてもシンプルです。
友達や親族に家を勧めるときと同じ気持ちで、お客様に向き合えるかどうか。
大切な人に家を勧めるとき、欠点を隠して売り込む人はいないはずです。日当たりが悪いなら、そう言う。管理が心配なら、そう言う。それでも良い家だと思えば背中を押すし、合わないと思えば「やめておいたほうがいい」と伝える。第2話では、この当たり前の姿勢が、なぜ今いちばん大切なのかをお話しします。
なぜ、メリットだけを語る営業が多いのか
業界の一員として、まず正直に書きます。メリットだけを並べる営業が多いのは、担当者の人柄だけの問題ではありません。仕組みがそうさせやすいのです。
1. 報酬は「契約が決まったとき」にだけ発生する
仲介手数料は成功報酬です。どれだけ丁寧に相談に乗っても、契約に至らなければ報酬はゼロ。デメリットを伝えてお客様が考え直せば、それまでの時間は売上になりません。
2. 売れる市場では、説明を省いても売れた
この数年は、物件そのものが営業をしてくれる時代でした。深く説明しなくても契約が決まるので、デメリットを伝える技術や習慣が育ちにくかったのです。
3. 数字で評価される
大手仲介会社をはじめ、多くの会社で、営業は契約件数や売上で評価されます。「今回はお勧めしません」と止めた判断は、どこにも記録されません。
だからこそ、デメリットを伝えるかどうかは、会社の方針と担当者の覚悟で決まります。仕組みに流されれば、良いことだけを言うほうが楽だからです。
業界全体でも、変化は始まっています。2025年1月からは、不動産会社が売り出し中の物件の取引状況をレインズ(不動産会社間の物件情報システム)に登録することが義務になりました。売主が自分の物件の状況を確認できる仕組みを、実効性のあるものにするためです。お客様から見えないところで情報を操作する余地は、少しずつ狭まっています。
物件には、必ずデメリットが潜んでいる
完璧な物件はありません。駅に近ければ騒がしい。眺めが良ければ価格が高い。新しければ高く、古ければ手を入れる必要がある。大切なのは、デメリットがあるかどうかではなく、それを知ったうえで納得して選べるかどうかです。
中古マンションで、特に見落とされやすい点をまとめました。
どれも、ポータルサイトを見ても詳細は分からず、聞かれなければ説明を省略されがちな項目です。逆に言えば、ここを自分から説明してくれる担当者は、お客様の判断を本気で支えようとしている担当者です。
背中を押すとき、「お勧めできません」と言うとき
デメリットを伝えることは、お客様を不安にさせることではありません。判断の材料をそろえることです。そして材料がそろったあと、私たちの役割は二つに分かれます。
背中を押すとき
デメリットをすべて知ったうえで、それでもこの家がいいと思える。その気持ちが、暮らし方や家計と噛み合っている。そんなときは、迷っているお客様の背中を、自信を持って押します。たとえば、駅からは少し遠いけれど、子育てに必要な広さと静かな環境がそろっている。そのデメリットを家族全員が理解しているなら、それは良い選択です。
「お勧めできません」と言うとき
一方で、こちらからはっきり止めることもあります。たとえば、こんな場面です。
- 借りられる上限いっぱいの住宅ローンで、金利が上がれば家計が回らなくなる
- 物件は気に入っているが、管理や修繕積立金に大きな不安がある
- 数年で住み替える予定なのに、将来売りにくい条件がそろっている
こう伝えれば、その場で契約を逃すかもしれません。それでも、友達や親族が同じ状況なら、私たちは同じことを言います。判断するのはお客様です。けれど、判断を誤らせる材料の出し方は、決してしません。
そして経験上、正直に止めたお客様ほど、次の住まい探しで「またお願いします」と戻ってきてくださいます。信頼は、一度の契約よりも長く続くものだからです。
判断するのは、お客様。
私たちの仕事は、良いことも悪いことも、
判断の材料をすべて差し出すこと。
売るときも同じ:耳ざわりのいい査定に気をつける
デメリットを伝える姿勢は、家を売る方に対しても変わりません。むしろ売却のほうが、正直さが試される場面は多いかもしれません。
売却の相談で、いちばん喜ばれるのは高い査定額なのかもしれません。そのため業界には、相場より高い査定額を示して売却の依頼を取る、というやり方があります。依頼さえもらえれば、あとから「反響がないので値下げしましょう」と言えばいいからです。
第1話で見たとおり、今は売り出し価格と成約価格の溝がかつてないほど開いている市場です。高すぎる価格で売り出せば、物件は在庫の山に埋もれます。その間に時間が過ぎ、「売れ残っている物件」という印象がつき、結局は最初から適正な価格で出すより安く売ることになりかねません。
ですから私たちは、売主の方にも相場の現実をお伝えします。
- 近所で売り出されている価格ではなく、実際に成約した価格がいくらか
- その価格で売り出すと、どのくらいの期間で売れそうか
- 高めに出す場合、どこまで待ち、どこで見直すか
聞きたくない話を含むこともあります。けれど、売主の大切な資産と時間を守るために必要な話です。
もうひとつ、知っておいていただきたいことがあります。売却を任された会社が、ほかの会社からの購入希望を断り、自社で買い手を見つけようとする「囲い込み」です。売主と買主の両方から手数料を得るためで、売主にとっては売却の機会を狭められることになります。先に触れたレインズへの取引状況の登録義務は、こうした問題を防ぐための仕組みでもあります。売却を依頼したら、レインズの登録証明書に記載された売主専用の画面で、ご自身の物件の状況を確かめてみてください。
AIの時代に、人が担うもの
今では、物件の相場も、周辺の成約事例も、正確さはともかく、AIに聞けば数秒で答えが返ってきます。物件説明文や問い合わせへの返信も、AIがかなりの部分を書けるようになりました。情報を集めて流すだけの仕事は、これから真っ先にAIに置き換わっていくでしょう。
では、不動産会社の仕事はなくなるのでしょうか。私はそうは思いません。AIが得意なのは「情報」です。人が担うのは「判断」と「覚悟」です。
- この家族にとって、この価格は無理のない買い物か
- 今は売るべきか、待つべきか
- 数字には表れない、この街の暮らしはどうか
こうした問いには、正解が一つではありません。家族の事情、仕事、将来の計画、そして気持ち。それらを聞き取り、デメリットも含めて一緒に考え、ときには「やめましょう」と言う。その責任を引き受けられるのは、今のところ人だけです。
私たちもいろんな場面でAIを使います。書類づくりや下調べをAIに任せ、そのぶん浮いた時間を、お客様と向き合う時間に充てる。テクノロジーは、誠実に寄り添う会社の味方です。
住まいのことで迷っている、すべての方へ
不動産会社の担当者に、率直に聞いてみてください。「この物件のデメリットは何ですか?」と。
すぐに、具体的に答えてくれる担当者なら、きっとあなたの判断を支えてくれるはずです。言葉を濁したり、良い点の話に戻したりするなら、少し立ち止まってもいいかもしれません。
そして同じ業界で働く皆さんへ。潮目が変わった今だからこそ、正直さは、いちばん確かな差別化になると私は信じています。
次回 最終回 第3話「誤魔化しが効かない時代に、選ばれる不動産会社とは」
友達や親族に勧めるときと同じように、良いことも悪いこともお伝えする。それは派手に儲かるやり方ではありません。けれど、潮目が変わった今こそ、いちばん確かな道だと考えています。最終回では、この姿勢を、私たちがどうやって会社の形にしてきたのかをお話しします。深川という街に根ざすこと、リニューアルやブランディングに込めた想い、そしてこれからの未来についてです。どうぞお楽しみに。
よくある質問
Q. 不動産会社がデメリットを説明しないのはなぜですか?
A. 仲介手数料が契約成立時にだけ支払われる成功報酬であることや、営業が契約件数で評価されやすいことなど、業界の仕組みがメリットだけを語る営業を生みやすいためです。デメリットを伝えるかどうかは、会社の方針と担当者の姿勢によって大きく変わります。
Q. 中古マンションを買うとき、どんなデメリットを確認すべきですか?
A. 修繕積立金と長期修繕計画、管理の状態、耐震基準、ハザードマップによる災害リスク、日当たりと周辺環境の変化、将来の売りやすさ、リノベーション費用など価格に含まれているものが代表的です。管理会社の重要事項調査報告書や過去の成約事例で確認できます。
Q. 旧耐震基準とは何ですか?
A. 1981年6月より前に建築確認を受けた建物に適用されていた耐震基準です。現在の新耐震基準より前の基準のため、住宅ローンの審査や税制上の優遇の条件に影響することがあります。建築確認の日付や耐震診断の有無で確認できます。
Q. 売却は、査定額がいちばん高い会社に任せればよいですか?
A. 査定額の高さだけで選ぶのはおすすめしません。相場より高い査定額は、売却の依頼を取るために示されている場合があります。実際の成約価格の根拠や、その価格で売れるまでの見込み期間を説明してくれる会社を選ぶことが大切です。
Q. 不動産の「囲い込み」とは何ですか?
A. 売却を任された不動産会社が、ほかの会社からの購入希望を断り、自社で買い手を見つけようとすることです。売主と買主の両方から手数料を得る目的で行われ、売主にとっては売却の機会が狭まります。2025年1月からはレインズへの取引状況の登録が義務になり、売主は登録証明書の売主専用画面で状況を確認できます。
Q. AIがあれば、不動産会社は必要なくなりますか?
A. 相場の確認や物件情報の整理などはAIで手軽にできるようになりました。一方で、家族の事情や家計を踏まえて購入や売却の判断を支え、ときには「やめましょう」と伝える役割は、人が責任を持って担う部分として残ると考えています。
Q. トラストリーと「深川くらし」はどんな会社・メディアですか?
A. 株式会社トラストリーは、東京・江東区深川を拠点に、中古マンションの仲介とリノベーションを手がける、豊かな暮らしをデザインする「地域価値創造企業」です。「深川くらし」は同社が運営する地域メディアで、深川の暮らし、まち、人の魅力を発信しています。
連載「潮目が変わった不動産市場で」
- 第1話 宴のあと:都内不動産市場で、いま何が起きているのか
- 第2話 潮目が変わった今、本当に必要な不動産会社とは(この記事)
- 第3話 トラストリーが、コツコツを選び続ける理由(近日公開)
出典
- 宅地建物取引業法施行規則の一部改正(取引状況の登録義務)の施行について(国土交通省、2024年12月24日)
- 季報 Market Watch 2025年度(東日本不動産流通機構)
- 月例速報 Market Watch 2026年7月度(東日本不動産流通機構)
このコラムを書いた人
柴田 光治 深川くらし 編集長/株式会社トラストリー 代表取締役
地域メディア「深川くらし」編集長。豊かな暮らしをデザインする「地域価値創造企業」株式会社トラストリーの代表。東京・江東区深川で「TRUSTORY fukagawa studio」と地域メディア「深川くらし」を運営。中古マンションの仲介とリノベーションを通じて、”豊かな暮らし”を提案しています。



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