物件の相場も、街の評判も、学区の情報も。今はAIに聞けば、何でもすぐに答えてくれます。家探しは、驚くほど便利になりました。
でも、AIにも検索にも見つけられないものがあります。それは、「顔を知っている人がいる街」です。
AIやロボットが進化する時代だからこそ、生身の人間同士のつながりは、むしろ希少で価値のあるものになっていく。これからの住まい選びは、物件だけでなく「つながりのある街」で選ぶ時代になると、私は考えています。今日は、そんなお話をさせてください。
便利になったのに、人はさみしくなっている
買い物も、仕事も、人との連絡も、スマートフォン一つで済むようになりました。暮らしは確かに便利になりました。でも、心まで満たされているでしょうか。
内閣府が2025年に行った調査では、孤独感が「ある」と答えた人は37.7%にのぼりました。さらに、誰かと食事をする機会が「ほとんどない」人では、その割合が60.8%に跳ね上がります。
一緒にご飯を食べる人がいる。それだけのことが、心の支えになっている。この数字は、そう教えてくれているように思います。
幸せを一番左右するのは、人とのつながり
ハーバード大学には、2,000人以上の人生を84年にわたって追いかけた、史上最長の幸福研究があります。その成果をまとめた『グッド・ライフ』(ロバート・ウォールディンガーほか著)の結論は、とてもシンプルでした。私たちの幸せと健康を一番左右するのは、良い人間関係だというのです。関係は数より質が大切で、人とのつながりは筋肉と同じように、使わなければ衰えていくとも書かれています。
お金の専門家として知られる本田健さんも、AI時代の豊かさについて「AIは、効率を最大化できます。でも、深い人間関係を築くことはできません」と書いています。
世界に7つほどの生活拠点を持つ連続起業家の福田淳さんは、「人間ってひとりでは生きていけません。だから無数のコミュニティがあるのです」と語っています。福田さんは拠点を持つたびに、その土地の気候や地形に合わせて家をつくり、地域に溶け込むことを大切にしているそうです。どこに住むかは、どのコミュニティに加わるかでもあるのだと思います。
AIやロボットが進化するほど、生身のつながりは希少になる
情報は、AIでいくらでも手に入る時代になりました。誰もが同じ情報にたどり着けるということは、情報そのものの価値は下がっていくということでもあります。
一方で、道ですれ違ったときに名前を呼んでくれる人や、「あの人なら詳しいよ」と誰かを紹介してくれる人、困ったときに気軽に声をかけられるご近所さんは、AIにはつくれません。
社会学には「弱い紐帯(ちゅうたい)の強さ」という有名な考え方があります。家族や親友のような強い関係よりも、顔見知り程度の「ゆるいつながり」の方が、新しい情報やチャンスを運んできてくれる、というものです。街の中に、ゆるやかな横のつながりをたくさん持っていること。それは、これからの時代にこそ価値が高まる、暮らしの財産だと思います。
深川には、横のつながりが今も生きている
そうしたつながりが、今も当たり前のように残っている街。それが深川です。
町会が担ぐ、深川八幡祭り
富岡八幡宮の例祭「深川八幡祭り」は、江戸三大祭りの一つです。3年に1度の本祭りでは、50基を超える町会の神輿が街を練り歩き、沿道からは清めの水が浴びせられます。2026年の夏は、ちょうどその本祭りの年でした。
神輿を担ぐのは、それぞれの町会の人たちです。祭りの準備から当日まで、世代を超えて顔を合わせる。町会という、まさにアナログなコミュニティが、江戸の時代から今も続いているのです。
顔なじみができる商店街と、新しい文化
門前仲町の商店街や飲み屋街では、何度か通えば自然と店主や常連さんと顔なじみになります。清澄白河にはカフェやギャラリーが集まり、新しく街に来た人たちの居場所も増えました。運河沿いの散歩道や木場公園では、犬の散歩や子ども連れの挨拶から会話が生まれます。
昔ながらの下町の人情と、新しい文化が混ざり合っている。だから深川は、もともと住んでいる人にも、新しく来た人にも、つながりの入り口が開かれている街なのだと感じています。
雑多さの中から、文化が生まれる
深川には、代々この地に暮らす人もいれば、地方から移り住んできた人も、アーティストもいます。何をしている人なのかよく分からない、ちょっと不思議な人だっています。
自分の思い通りにはならない、さまざまな他者が、勝手に入り混じっている。私は、そうした雑多さの中にこそ、新しい文化やイノベーションが生まれるのだと思っています。すべてが計画され、整えられた街からは、なかなか生まれないものです。
もちろん、この雑多さが心地よい人もいれば、そうでない人もいるでしょう。きれいに整った街を求める方には、合わないかもしれません。ただ、深川の人は、ズカズカと人の領域に踏み込んでくることはあまりありません。ほどよい距離感を保ちながら、ゆるやかに混ざり合っている。それが、この街の居心地の良さなのだと思います。

清澄通り沿いの街並み
知り合いが一人もいない街だった
実は私自身、この街に来たときは、知り合いが一人もいませんでした。
最初は、誰に声をかければいいのかも分かりませんでした。転機になったのは、街のイベントに顔を出したことです。そこで出会った人が、また別の人を紹介してくれる。その人が、さらに次の人へとつないでくれる。気がつけば、街の知り合いはものすごいスピードで広がっていきました。
はっきり言って、深川出身の人たちは、向こうからグイグイ来るタイプではありません。基本的にはシャイで、最初は少しとっつきにくく感じることもあります。だから、待っているだけでは、つながりは生まれなかったかもしれません。
でも、そこは東京です。深川にも、いろいろな地域から人が集まってきています。新しく来た人は、決してあなた一人ではありません。「つながりを増やしたい」という気持ちを持って、一歩さえ踏み出せば、知り合いは自然と増えていきます。一度輪に入ると、次々に新しい人を紹介してもらえるのです。
「つながりのある街に住みたいけれど、自分は新参者だから」と不安に思う方もいるかもしれません。でも、最初の一歩は小さなことで十分です。たとえば、こんなところから始めてみてはいかがでしょうか。
- 街のイベントや祭りに顔を出してみる。見に行くだけでも、顔を覚えてもらうきっかけになります。
- 行きつけのお店をつくる。同じお店に何度か通えば、店主や常連さんと自然に言葉を交わすようになります。
- 「この街で、ほかに面白い人やお店はありますか」と聞いてみる。最初は少し照れくさそうでも、きっと誰かを教えてくれます。
住まい選びは、「つながりのある街」で選ぶ時代へ
駅からの距離、広さ、価格。これまでの家探しは、数字で比べられる条件が中心でした。そうした条件は、これからもAIがどんどん上手に比べてくれるでしょう。
でも、毎日の暮らしの満足を決めるのは、数字だけではありません。休日にふらっと立ち寄れるお店があるか。名前を呼んでくれるご近所さんがいるか。困ったときに頼れる人がいるか。そうした人とのつながりまで含めて、住む街を選ぶ時代になっていくのだと思います。
私たちトラストリーのスタッフの多くがこの街で暮らしています。物件のことはもちろん、街のお店や人のこと、祭りや行事のことも、地元に暮らす一人としてお話しできます。
そして、深川くらしを運営するトラストリーでは、これから街のつながりを育てる場づくりにも、積極的に取り組んでいきます。新しく越してきた方と、この街の人たちをつなぐ。かつて私自身がそうしてもらったように、今度は私たちが「紹介する側」になれたらと思っています。
物件はAIで探せても、顔見知りのいる街は検索できません。AIやロボットが進化する時代だからこそ、生身の人間同士のコミュニティを大切にしたい。私たちは、これからも深川の暮らしに寄り添い続けます。

よくある質問
Q. 知り合いがいない街に引っ越しても、地域になじめますか?
なじめます。ただ、深川の人は向こうから積極的に話しかけてくるタイプではないので、待っているだけでは難しいかもしれません。祭りや町会のイベント、商店街のお店など、一歩踏み出して顔を出すと、そこから次々に人を紹介してもらえることが多くあります。
Q. 深川エリアはどんな街ですか?
門前仲町・清澄白河・森下・木場などを含む江東区のエリアです。深川八幡祭りに代表される町会や商店街のつながりが今も息づき、カフェやギャラリーなど新しい文化も根づいた、古さと新しさが混ざり合う街です。
Q. 深川は、どんな人に向いている街ですか?
地元の人、移り住んできた人、アーティストなど、さまざまな人が入り混じる雑多さを楽しめる人に向いています。ほどよい距離感を保つ人が多く、ズカズカと踏み込まれることはあまりありません。一方で、きれいに整った街を求める方には、合わないかもしれません。
Q. 深川八幡祭りとはどんなお祭りですか?
富岡八幡宮の例祭で、江戸三大祭りの一つです。3年に1度の本祭りでは50基を超える町会の神輿が連合渡御し、沿道から水をかけることから「水かけ祭り」とも呼ばれます。
Q. AIで物件探しができる時代に、地元の不動産会社に相談する意味はありますか?
物件情報や相場はAIで調べられますが、街の人のつながりや、暮らしてみないと分からない空気感は検索できません。その街に暮らす担当者だからこそ伝えられることがあります。
お店のこと、祭りのこと、子育てのこと。物件だけでなく、深川での暮らしについても気軽にご相談ください。「まだ住むかどうか決めていない」という段階でも歓迎です。
著者:柴田光治
株式会社トラストリー 代表取締役/深川くらし 編集長/宅地建物取引士・2級FP技能士。
不動産・建設業界歴40年超。2016年に株式会社トラストリーを創業し、「深川たてもの相談所」を運営。深川・清澄白河エリアの住まいと暮らしを発信するウェブメディア「深川くらし」編集長として、売却・購入・リノベーションまで、暮らしに寄り添う住まいの相談を続けている。
参考:内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」(2025年実施)/ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ著『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(辰巳出版)/本田健「AI時代の豊かさは『生産性』では測れない」(マネー現代、2026年1月)/「連続起業家・福田淳『僕らはターザンではないからコミュニティが必要だ』」(GOETHE、2026年5月)



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