以前のコラムで「番外」として触れた潮見について、今回は行政の公式方針をもとに深掘りします。
「潮見」と聞いて、街の姿がすぐに思い浮かぶ方は多くないかもしれません。
運河に囲まれた静かな住宅地。そんな漠然としたイメージのまま、これまであまり注目されてこなかったエリアです。ですが令和8年6月、江東区は15年以上ぶりに「潮見地区まちづくり方針」(PDF)を改定しました。江東区・深川エリアを見続けてきた不動産のプロの目線で、行政の公式方針を一つひとつ読み解いていきます。
🔍 この記事でわかること
- 「潮見地区まちづくり方針」が15年ぶりに改定された理由と、潮見が今抱えている課題
- ShiomiX(エリアマネジメント)・枝川新駅・築地再開発という3つの追い風
- 水辺の魅力と、方針が示す「浸水対応」という現実的な備え
- 住民アンケートから見える、今の潮見のリアルな評価
- 上位計画との関係から見えてくる、資産性という視点

江東区「潮見地区まちづくり方針」資料より
潮見地区まちづくり方針とは|15年ぶりの改定で何が変わったか
「潮見地区まちづくり方針」とは、江東区が潮見一丁目・二丁目のまちづくりの方向性を示す公式指針です。前回策定の平成20年10月から15年以上が経過し、当初想定された民間開発が停滞する一方で、地下鉄8号線(有楽町線)延伸に伴う新駅・(仮称)枝川駅の設置が具体化。街の実態と当初計画のズレを踏まえ、今回大きく描き直されました。現在の土地利用を見ると、集合住宅が地区の約17.7%、倉庫・運輸施設が約10.2%を占めており、都心に近い住宅地でありながら、物流・産業の顔も併せ持つのがこの街の土地柄です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象区域 | 潮見一丁目・二丁目(約51ha) |
| 人口 | 約34,732人(令和8年1月時点) |
| 前回策定/今回改定 | 平成20年10月/令和8年6月 |
| 立地特性 | 汐浜・汐見・曙北・東雲北・平久・豊洲・砂町の各運河に囲まれた水辺の街 |
| 目指す姿 | 水辺と緑に囲まれた、誰もが安心して快適に暮らせるにぎわいのあるまち |
▶ 原文を読む:江東区「潮見地区まちづくり方針」PDF(令和8年6月改定版)
潮見が抱える4つの課題|方針改定の”本音”
今回の方針は、いきなり理想像から描かれたわけではありません。ベースにあるのは、江東区が整理した4つの課題です。
- 安全・安心――治安悪化への懸念、水害を中心とした災害対応、拠点避難所の不足。
- 水辺・緑――運河に囲まれていながら、水辺へのアクセスが限られ、公園同士の連携も弱い。
- 地域交流――駅周辺に商業施設や交流拠点が少なく、コミュニティが育ちにくい。
- 交通ネットワーク――バス路線・運行本数が少なく、日常の移動に不便を感じる住民が多い。
裏を返せば、これらは「今の潮見の弱点」であると同時に、方針を読み進めるほど「行政が本気で埋めにいこうとしているポイント」でもあります。次章で紹介する3つの追い風と、続く4つの柱は、この課題への回答として読むと理解が深まります。
なぜ今、潮見が動き出すのか|3つの変化が重なるタイミング
潮見は今、単独の再開発ではなく、複数の変化が同時に重なる珍しいタイミングを迎えています。
- ①地下鉄8号線延伸・(仮称)枝川駅の誕生――豊洲〜住吉間を結ぶ新路線が、隣接する枝川エリアに新駅をもたらします。潮見自体は沿線ではありませんが、豊洲臨海エリアとの接続性が間接的に高まると見込まれます。
- ②ShiomiX(シオミックス)の本格始動――JR東日本グループの都市開発会社「JR東日本都市開発」が主導するエリアマネジメント組織です。令和7年4月設立の準備会を母体に、2026年4月から本格始動し、企業と地域が一体となって「潮見」というエリアブランドを育てるフェーズに入りました。
- ③対岸で進む築地再開発「ONE PARK ONE TOWN」――2032年開業を目指す大規模プロジェクトで、隅田川を挟んだ対岸エリアの人の流れが変わる可能性があります。
📌 深川プロの視点
個々の材料だけを見れば「まだ先の話」に思えるかもしれません。しかし新駅・エリアマネジメント・広域再開発という3つの力が、同じ時期の同じエリアに重なることは珍しく、まさに清澄白河が「陸の孤島」から化けた時と似た構図です。
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方針を読み解く|潮見が目指す4つの柱
柱1. 水と緑に囲まれた住環境
潮見最大の個性は、複数の運河に囲まれた立地です。方針では「潮風の散歩道」をはじめとするみどりのネットワークを連続させ、街全体の回遊性を高める方向性が示されています。運河ルネサンス(水辺の利活用を進める東京都の取り組み)による観光桟橋の整備やイベント開催も構想されており、水辺は「見る場所」から「使う・楽しむ場所」へと役割を広げようとしています。土地利用方針でも「水辺生活ゾーン」「水辺活用ゾーン」が新設され、水辺に顔を向けた建築との調和が明確に位置づけられました。あわせて、道路のバリアフリー化と良好な景観形成、誰もが安心して利用できる公園・広場づくりも掲げられており、子育て世帯や高齢者にとっての歩きやすさにも配慮されています。
柱2. 交通ネットワークの強化
住民アンケート(425件回答)でも「交通ネットワーク」を重要テーマに挙げた声は256件と、安全・安心に次ぐ多さでした。これに対し方針は、コミュニティバスの充実に加え、自動運転やドローンの実証実験まで視野に入れています。潮見自体は豊住線の沿線ではありませんが、枝川新駅の開業効果が波及すれば、豊洲臨海エリアとの接続性向上は現実味を帯びてきます。
柱3.「浸水対応」を本気で考える防災
運河に囲まれた土地である以上、水害リスクとは正面から向き合う必要があります。実際、住民アンケートでも水害への不安は懸念事項に挙げられました。方針では、中高層建築物に災害時の「緊急機能」と生活継続のための「維持機能」を備えた浸水対応型構造への転換を促し、公共建築物にも同様の方針を掲げています。水辺の大規模公園には防災機能と交流機能の両方を持たせ、拠点避難所不足の課題にも応えようとしています。あわせて、地域と連携した安全・安心パトロール事業も、治安悪化への懸念に対する具体策として盛り込まれています。
柱4. ShiomiXによる「育てるまちづくり」
令和7年4月設立の準備会を経て、2026年4月に本格始動したエリアマネジメント組織「ShiomiX」。行政が方針を描くだけでなく、企業・住民・事業者が主体的に街の運営に関わる体制づくりが、すでに動き出しています。駅前広場や公開空地を交流の場として創出し、世代や文化を超えたコミュニティ形成を進めるこの視点は、一時的な再開発ブームで終わらない持続的な資産価値の土台になります。

江東区「潮見地区まちづくり方針」資料より
住民アンケートに見る、リアルな「今」の声
方針策定にあたり行われた住民アンケート(425件回答)からは、実際に暮らす人だからこそ見える潮見の姿が浮かび上がります。
| 良いところ | 望ましい新機能 | 懸念事項 |
|---|---|---|
| 暮らしやすさ・静かな環境/水辺空間/都心への近接性 | スーパー・飲食施設/交番の設置/バス路線の充実 | 治安悪化への不安/夜間騒音・ごみ散乱/水害への不安 |
「静かで暮らしやすいが、生活利便施設と安心感がもう一歩」というのが、今の潮見に暮らす人たちのリアルな評価と言えそうです。方針に掲げられた4つの柱の多くが、こうした声に正面から応えようとしている点は素直に評価できます。
7つのゾーンで見る、潮見の将来像
方針では地区を「駅周辺複合機能」「水辺生活」「水辺活用」「水辺調和」「低中層住宅」「環境・リサイクル」「水辺大規模公園」の7ゾーンに整理しています。にぎわいを生む駅周辺、水辺と調和した住宅地、造船業など既存産業と共存するエリア、落ち着いた低中層住宅市街地――多様な顔が共存しながら、全体として「水辺と緑に囲まれた、にぎわいのあるまち」という一つの方向へまとまっていく設計です。
上位計画とのつながりと、資産性という視点
今回の方針が単なる地区の思いつきではなく、腰を据えた計画であることは、上位計画との整合が図られている点からもうかがえます。「江東区都市計画マスタープラン2022」「東京ベイeSGまちづくり戦略2022」、そして隣接する「(仮称)枝川駅周辺地区まちづくり方針」(令和7年3月策定)と足並みを揃えながら、潮見単体ではなく、深川・豊洲・枝川を含む江東区南部エリア全体で価値を高めていく流れの中に位置づけられています。
不動産の資産性を見極める上で重要なのは、こうした「一つの街だけで完結しない、面としての将来性」です。都心への近接性、水辺の住環境、新駅を核とした利便性向上、そしてエリアマネジメントによる継続的な運営体制――これらが重なり合う潮見は、短期的な話題性だけでなく、中長期的に見ても資産性が底堅くなりやすい条件を備えていると言えるでしょう。
⚠️ 深川プロの正直な見立て
潮見は「ダークホース」として魅力的ですが、ShiomiXの取り組みや周辺開発の進捗によって、効果が「いつ・どこまで」及ぶかにはまだ幅があります。投資目的であれば情報収集を続けながらタイミングを見極めることが重要です。一方、居住目的であれば「東京駅まで直通7分」という立地の実力はすでに本物であり、水辺の住環境や防災への本気度を含めて、今からじっくり検討する価値は十分にあります。

江東区「潮見地区まちづくり方針」資料より
まとめ|潮見は「知られる前」が一番おいしい
「潮見地区まちづくり方針」を読み解くと見えてくるのは、静かな水辺の住宅地が、防災力と利便性を高めながら、ShiomiXという枠組みのもとで住民自身の手で育てられていく街へと進化しようとしている姿です。枝川新駅・築地再開発という周辺の大きな変化を控えた今は、街の将来性を見極めるうえで絶好のタイミングとも言えます。深川エリアとあわせて、ぜひ「潮見」という選択肢にも注目してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 潮見地区まちづくり方針は、いつ改定されましたか?
A. 令和8年6月に改定されました。前回の策定は平成20年10月で、15年以上ぶりの改定となります。
Q. ShiomiXとは何ですか?
A. JR東日本都市開発が主導する潮見駅周辺のエリアマネジメント組織です。令和7年4月設立の準備会を経て、2026年4月に本格始動しました。
Q. 潮見は地下鉄8号線(豊住線)の沿線ですか?
A. 潮見自体は沿線ではありません。ただし隣接する(仮称)枝川駅の開業により、豊洲臨海エリアとの接続性が間接的に向上すると見られています。
Q. 潮見エリアの水害対策はどうなっていますか?
A. 中高層建築物・公共建築物ともに、災害時の「緊急機能」と生活継続のための「維持機能」を備えた浸水対応型構造への転換が方針に盛り込まれています。
Q. 潮見地区まちづくり方針は、どんな上位計画と関連していますか?
A. 「江東区都市計画マスタープラン2022」「東京ベイeSGまちづくり戦略2022」、および隣接する「(仮称)枝川駅周辺地区まちづくり方針」(令和7年3月策定)と整合を図りながら策定されています。
【参考資料・情報元】
江東区「潮見地区まちづくり方針」(令和8年6月改定版・PDF)
江東区ホームページ(www.city.koto.lg.jp)
執筆者:柴田 光治(しばた こうじ)
株式会社トラストリー 代表取締役社長/「リフォーム不動産 深川studio.」・Webメディア「深川くらし」運営
大手不動産会社グループで仲介・新築分譲・法人営業などを幅広く経験したのち、下町ならではの人のつながりと街の勢いに惹かれて深川エリアで独立。江東区・深川エリアに特化した不動産会社を営みながら、地域のまちづくり動向や住まいの相談に日々向き合っている。



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