自動車を買うとき、月々の支払いを抑える代わりに、数年後の「残価」をあらかじめ決めておく買い方があります。いわゆる「残クレ(残価設定クレジット)」です。今、新車ローンを組む人の7割近くがこの方式を選んでいると言われています。
実は今、これとまったく同じ発想の住宅ローンが、国の後押しを受けて動き出しています。名前は「残価設定型住宅ローン」。2026年3月からは専用の保険制度も始まりました。
「家にも残クレが来た」と聞くと、ちょっとドキッとする方もいるかもしれません。ただ、大切なのは怖がることでも、飛びつくことでもなく、仕組みを正しく理解することです。今回は前編・後編の2回に分けて、この新しい住宅ローンの正体と、私たちが日々の相談の中で感じていることを、包み隠さずお伝えしていきます。
📝 この記事でわかること
- 「残価設定型住宅ローン」の仕組みと、自動車の「残クレ」との共通点・違い
- 制度の対象となる物件・金融機関、関係する組織(日本住宅ローン、JTIなど)
- 国がこの商品を後押ししている背景
- 深川エリアで実際にご相談を受けている立場から見た、メリットと注意点
自動車の「残クレ」、実は7割の人がもう使っている
まず自動車の残クレのおさらいから。仕組みはシンプルで、契約時に「3年後・5年後の車の値段」を販売会社が先に決めておき、その分(残価)を差し引いた金額で月々の支払いを計算します。期間が満了したら、選べる道は3つ。車を返す、残価を払って買い取る、新しい車に乗り換える、のいずれかです。
これだけ広まった理由ははっきりしています。給料が思うように上がらない一方で、車両価格は上がり続けてきたからです。月々の支払い額だけを見れば「手が届く」形にする。それが残クレでした。
その「残クレ」が、住宅にもやってきた
2026年3月、住宅金融支援機構がこの仕組み専用の保険制度をスタートさせました。対象となるのは「残価設定型住宅ローン」という商品です。
仕組みは車のケースとよく似ています。契約時点で「20年後・50年後の住宅価値」をあらかじめ見積もり、その分を差し引くことで月々の返済額を抑えます。返済期間が満了したら、残りの残価を払って住宅を買い取るか、住宅を手放すかを選びます。
ただし、車と大きく違う点が3つあります。ひとつは期間の長さ。車が3〜5年なのに対して、住宅は20〜50年です。もうひとつは返す先。車は販売会社に返せば済みますが、住宅の場合は満了時に受け皿となる組織(後述するJTI)が買い取る形になります。そして最も大きな違いは、住宅を手放したあとの住み替え先を、自分で確保しなければならないという点です。
現時点でわかっている制度の中身
- 対象は国の認定を受けた「長期優良住宅」の一戸建てのみ
- 対象となる住宅も、提携する特定のハウスメーカーが建てたものに限定
- 取り扱う金融機関は現時点で日本住宅ローン株式会社、三菱UFJ銀行、楽天銀行の3社のみ
- 満了時に住宅を買い取る受け皿は、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構(JTI)
日本住宅ローン株式会社は、積水ハウス・大和ハウス工業・住友林業・積水化学工業(セキスイハイム)といった大手ハウスメーカーが出資して約20年前に設立した金融会社です。JTIも「マイホーム借上げ制度」を長年運営してきた実在の組織で、公式サイト上で自らの役割を「期間所有」という考え方で説明しています。
なぜ今、国がこの商品を後押ししているのか
国土交通省が説明している狙いは、若い世代が住宅を取得しやすくすることです。給与の伸びが緩やかな一方で新築住宅価格の上昇が続く中、「月々いくらなら払えるか」を基準に住宅取得のハードルを下げようという発想は、自然な流れとも言えます。
一方で、月々の負担が軽くなる理由は値引きではなく、「将来住宅を手放す約束を先にしている」からだという点は、正確に理解しておく必要があります。安くなった分のツケは、契約満了のタイミングで清算されることになります。
✏️ 著者の所感
一点補足しておくと、日本住宅ローン自体は残価設定型ローン専用の会社ではありません。弊社のお客様の中にも、中古マンションの購入時に日本住宅ローンを利用されるケースは実際にあります。あくまで「残価設定型ローン」というのは、そのラインナップの中の一商品であり、対象は特定の新築住宅に限られる、という点は改めて整理しておきたいところです。そのうえで、これは私の推測にすぎませんが、昨今の資材高・人件費高の影響で注文住宅の新規需要が先細っていく中、大手ハウスメーカーが主導してこの商品を考えたという背景を踏まえると、新築需要をつなぎとめるための苦肉の策という側面もあるのかもしれない、と感じています。
メリット 。「立地」や「質」を諦めなくていい
残価設定型住宅ローンに限らず、返済期間を延ばして月々の負担を抑えられれば、これまでなら手の届かなかったエリア・グレードの住まいにも選択肢が広がります。特に資産性の高いエリアであれば、将来的な売却や住み替えの柔軟性も確保しやすくなります。これは素直に評価してよいメリットです。
実はここでもう2点、触れておきたいことがあります。残価設定型住宅ローンも返済期間が20〜50年に及ぶ以上、こうした長期の住宅ローンに共通するメリットも当てはまります。ひとつは、完済時年齢の上限がある以上「若い世代だからこそ選べる特権」だという点。もうひとつは、ローンに合わせて加入する団体信用生命保険(団信)が、実質的に借入額と同じ規模の生命保障になるという点です。これらは超長期ローン全般に共通するテーマなので、後編でまとめて詳しく解説します。
気をつけたいポイント 。「出口」まで具体的にイメージできているか
一方で、契約する前に必ず正しく理解しておいていただきたい注意点もあります。
📌 契約満了時に「買い取るか、手放すか」の判断が必ず訪れます。30歳で組んだ50年ローンなら、満了は80歳。その時点でまとまった残価を用意できるのか、住み替え先をどう確保するのか、契約する今のうちに具体的にイメージしておく必要があります。
📌 対象になる物件・金融機関がかなり限られています。決められたハウスメーカーの長期優良住宅に限られ、地元の工務店が建てた住宅や中古住宅、相続した実家などは対象外です。「なぜこの物件は使えないのか」を理解しないまま話を進めると、後で選択肢の狭さに戸惑うことになります。
📌 長期優良住宅としての維持管理義務があります。決められた計画通りに点検・修繕を続ける必要があり、これを怠ると認定が取り消される可能性がある点も見落とせません。
後編では「金融庁の待った」を詳しく見ていきます
実は今、ここまでお話しした残価設定型住宅ローンとは別に、「返済期間を延ばして月々の負担を抑える」という同じ発想を持つ、一般的な「超長期ローン」にも大きな動きが起きています。2026年8月28日、金融庁がこの「50年住宅ローン」の広がりに懸念を示し、監視を強化する方針だと報じられたのです。
国土交通省は残価設定型住宅ローンの普及を後押しし、金融庁は超長期ローン全般に警戒を強める。同じ政府の中で方向性が違って見えるかもしれませんが、これは実はそれぞれ違う場所を見ているだけなんです。後編では、両者の視点の違いから見えてくる「後悔しない住宅ローンとの向き合い方」を、具体的なチェックリストとともにお伝えします。
▶ 後編はこちら:「50年住宅ローン」に金融庁が待った。国交省と金融庁、二つの視点から学ぶ資金計画
よくある質問
Q. 残価設定型住宅ローンとは何ですか?
A. 契約時に「20〜50年後の住宅価値(残価)」をあらかじめ見積もり、その分を差し引くことで月々の返済額を抑える住宅ローンです。返済期間が満了すると、残りの残価を払って住宅を買い取るか、住宅を手放すかを選びます。2026年3月から住宅金融支援機構による専用の保険制度も始まりました。
Q. どんな人でも利用できますか?
A. いいえ。対象は国の認定を受けた「長期優良住宅」の一戸建てで、かつ提携する特定のハウスメーカーが建てた住宅に限られます。取り扱う金融機関も、現時点で日本住宅ローン株式会社、三菱UFJ銀行、楽天銀行の3社のみです。
Q. 満期時に残価を払えなかったらどうなりますか?
A. 残価を払って買い取れない場合は、住宅を手放すことになります。手放した住宅は移住・住みかえ支援機構(JTI)が買い取り、その後は自分で新しい住まいを確保する必要があります。契約する段階で、満期時の資金計画と住み替え先までイメージしておくことが重要です。
Q. 月々の負担が軽くなるのはなぜですか?
A. 値引きではなく、「将来住宅を手放す約束を先にしている」ことで、その分を差し引いているためです。安くなった分のツケは、契約満了のタイミングで清算されます。
Q. 日本住宅ローンは、残価設定型ローン専用の会社ですか?
A. いいえ。日本住宅ローンは通常の住宅ローンも幅広く取り扱っており、中古マンションの購入などにも利用されています。残価設定型ローンはそのラインナップの中の一商品で、対象は国の認定を受けた特定の新築住宅に限られます。
TRUSTORY × 深川くらし
「うちの場合、超長期ローンってどうなんだろう」。そんな段階からのご相談を歓迎しています。仕組みを正しく理解するところから、深川・清澄白河・門前仲町エリアの住まい探しと資金計画について、ファイナンシャルプランナーとも連携しながら、一緒に整理いたします。
著者:柴田光治
株式会社トラストリー 代表取締役/深川くらし 編集長
不動産・建設業界歴40年超。深川・清澄白河エリアの住まいと暮らしを発信するウェブメディア「深川くらし」編集長として、住宅ローンや資金計画についても発信を続けている。
本コラムは住宅購入・住宅ローンを検討されている方への情報提供を目的としております。個別の資金計画やローンの組み方については、専門家へのご相談をお勧めします。
参考記事・出典



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