深川を愛する人に、まちの魅力をたずねる。【まちを愛する人に聞く#2】柳澤大輔|焼き鳥アポロ

富岡1丁目から清澄3丁目へ移転した「焼き鳥アポロ」。門前仲町でのオープンから13年目、地元の人たちに愛される人気店です。店主の柳澤大輔さんは、生まれも育ちも深川っ子。古石場一丁目西町会の神輿総代でもあります。今回は深川のまちを愛する人のひとりとして、柳澤さんにまちの変化と魅力について、お話をうかがいました。

 

–– 柳澤さんのあゆみについてまずは教えてください。

生まれは三好(江東区)、育ちはずっと門前仲町近辺。20代の頃、広告会社でグラフィックデザイナーをしていたんだけど、毎日深夜まで残業しては、先輩たちが近所の焼鳥屋に誘ってくれてね。
店内はいつも煙でモクモク、ガヤガヤ。「あぁいつかこういう店をやりたいな」と憧れたのが今につながる原点で、そこから飲食店に勤めたり、父の印刷所を継いだりして、2012年に門前仲町で焼き鳥アポロを開店した。

 

–– 焼き鳥アポロについて

富岡(門前仲町)の店は、たった5坪。8席しかなかったけど、おかげさまで地元の人や地元企業に勤める人が足繁く通ってくれた。「ふらっと入ってみたら味がおいしくて」と常連になるお客さんも多くて嬉しかったね。

2024年に清澄に移転してからは、毎日新しい人が来るようになった。そういう人には「どこに住んでいるの?」から始まって、深川のまちや祭のことを説明することが多いね。

店内のコの字カウンター前で語る、店主の柳澤さん

 

–– 深川のまちの今と昔について教えてください。

清澄白河といえば、昔は、お墓にじいさんばあさんに野良猫みたいなイメージだったけど、今や土日になると若いカップルがデートで訪れる場所。

僕は車が好きでよく横浜へでかけるけど、個人的には、清澄白河が横浜の野毛みたいになったらおもしろいなと思っている。清澄白河は今「アートやコーヒーのまち」としてのイメージが定着しつつあるけど、個人経営の小さな飲み屋が集まるようなエリアに発展したらどうだろうか。

一方で、門前仲町方面は、昔からあまり変わっていない気がする。以前よりも飲み歩く人が減ったから、夜は静かになったかもしれないね。

門前仲町には日本一、つまり世界一の御神輿があるとか、太鼓の会がいくつもあるとか、江戸消防記念会の鳶(とび)の人たちがうろちょろしてくれているとか。こうした江戸の文化のおかげで、まちの空気が保たれているのだと思う。

深川のまち全体で、観光客も増えたよね。浅草のようにたくさんの人を迎え入れられるような大型バスの駐車場があったらいいのにと思っているよ。

photo:フカフォト

 

–– 深川の人たちは、どんな人が多いでしょう。

一言で言えば「小を好む」。シャイで、自分を大きくみせることを好まない人が多い。

「粋な深川 鯔背(いなせ)は神田」なんて言葉のとおり、ここには粋を感じる人がたくさんいる。この辺の仲間とも「粋って何だろう」と話すことがあるけど、俺の親分だった人は「粋には二通りあって、服装もだけど、心も大切なんだ」と話していたね。

手前よりも相手を助ける、でも思いやりだけじゃ、粋じゃない。あと半分は、カッコよさだったり茶目っ気だったりするのだろうね。まさに、「義理と人情とやせ我慢」を信条とする人たちが多いよね。

天井につるされているアポロロケットの模型

–– 深川といえば「富岡八幡宮例大祭」。柳澤さんにとってどんな存在ですか?

深川をつなぐ絆であり、絶対不可欠な存在。あくまで「フェスティバル」ではなく「神事」だから、俺はそれに守られていて、先人たちが必死に守ってきたそれを次へつながなくてはならないという責任を感じている。

祭のおかげで深川のまちは、一つにまとまっているんだと思うよ。

富岡八幡宮例大祭のお神輿に水しぶき

photo:フカフォト

御神輿を担ぐのは、富士山登頂の5倍は達成感があるね。道中お酒を一滴も飲まないから、終わったあとの気分といったら、そりゃあもう最高。

年々担ぎ手が減っていることには危機感を抱いていて、爆発的に担ぎ手を増やすことはできないかもしれないけど、若い人たちがやってみたいと思えるように、祭りの魅力をブラッシュアップして伝える必要があると思う。

大人になって水をかけられて、ずぶ濡れになることってないよね、とか。

とにかく一度担いでみたら、また担ぎたいと必ず思うだろうから、まずは興味を持ってもらうところから始めたい。

 

–– 深川での暮らしを検討している人へ、メッセージを。

深川は、物理的にいえば都心からも近く、交通が便利で住みやすいまち。車好きとしては、大通りにガードレールの付いた中央分離帯がないところが特に好きだね。祭以外にも東京マラソンのコースにもなっているし、1年中なんだかんだイベントがあって、賑やかな場所だと思う。

この辺は、「粋と人情のまち」なんてキャッチフレーズもあるけど、あえて「人情が残っているまち」とは言いたくないね。そういうまちは多いから。

どちらかといえば、伝統を守る心強きやさしき人たちが集まるまち。
新しく暮らす人には、一緒にこの深川の輪(和)に入りましょう、と伝えたいね。「深川で、深い絆で結ばれましょう」なんてね。

店内のカウンター越しに見える店主とAPOLLOと描かれた壁画

焼き鳥アポロ
住所:東京都江東区清澄3-9-12 RINNOVE3 5F
https://www.instagram.com/yakitori_apollo/

 

取材・著・写真(一部)
鳩白方はるか(鳩)
フリーランスの編集・ライター。清澄白河で猫とともに暮らしている。あだ名は「鳩」 好きな食べ物はカツオのたたき
https://note.com/tyorehato

ライターの鳩さんが、清澄白河で中古マンション購入からリノベーション、実際に暮らすまでを綴った「リアル体験記」は、以下のリンクからご覧ください。
◆ リアル体験記【中古マンション購入編】
◆ リアル体験記【リノベーション編】

編集後記

深川くらしのスタッフもここの焼き鳥が大好きで、何度も利用させていただいている「焼き鳥アポロ」さん。
店主の柳澤さんとはお店を通じて10年弱のお付き合いとなりますが、今回の取材で普段ゆっくりとお話しできないこともお聞きすることが出来て、とても新鮮な時間でした。

私も深川に事務所を開設したての頃、初めてフラっと入った清澄白河の居酒屋でお祭りの話をしていたら、店主に「どこの町会?」、「今度総代を紹介するよ!」なんて、店主や飲みに来ている方々とも急に距離が縮まったのを覚えています(笑)

まちが時代と共に発展していく中で、伝統を守り続けているお祭りの存在は、歴史を繋ぎ、人を繋ぎ、地域においても必要不可欠なものなんだと、改めて感じることが出来ました。

昨今は、清澄白河のおしゃれな部分ばかりがクローズアップされていますが、深川のお祭りを一度でも体験すると、新たな魅力を感じられると思いますよ。(し)

▼焼き鳥アポロの紹介記事を見てみる↓ ↓

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