東京のマンション市場は、「投資マネーで上がった場所」と「住む人が支える場所」に分かれ始めました。湾岸では値下げが広がり、深川もその波を受けて調整に入ります。ただ、再開発のすぐ隣で「住みたい」と思われる街は、底堅さを保つと私は見ています。
2026年11月4日、東京建物が「YNK(八重洲・日本橋・京橋)エリア まちづくりビジョン」を発表しました。そこに並んだのは、「世界から人と投資を引き寄せる」という言葉と、「自分の居場所と感じられる都市をつくる」という言葉です。
この2つは、いまのマンション市場を読み解く鍵でもあります。価格を押し上げてきたのは「投資」。価格を支え続けるのは「居場所」を求めて住む人たちです。深川で不動産の仕事をしている立場から、公表されている数字をもとに、いまの市場を読み解きます。
文:深川くらし 編集長 柴田 光治(株式会社トラストリー 代表取締役)/情報の基準日:2026年11月5日
🔍 この記事の要点(30秒でわかる)
- 東京23区の中古マンション価格は、2026年9月まで4か月連続で下落。都心6区は5か月連続です。
- 湾岸のタワーマンションでは値下げが広がり、1月から9月で約3.6%下がりました。一方で、1億円未満の物件はまだ上がっています。
- 下がっているのは、投資のお金が入って高くなりすぎた場所と価格帯です。
- 深川も湾岸につられて上がった分、調整はあり得ます。ただし、実需が底を支える条件がそろっています。
大手デベロッパーが力を注ぐ、橋の向こう
日本橋・八重洲はいま、日本の大手デベロッパーがそろって力を注いでいるエリアです。
東京建物
主なプロジェクト
TOFROM YAESU(地上51階・約250m)
いま
2026年9月に開業
三井不動産・野村不動産
主なプロジェクト
東京ミッドタウン日本橋(地上52階・約284m)
いま
2026年9月30日に竣工、2027年内にオープン予定
三菱地所
主なプロジェクト
Torch Tower(地上62階・385m)
いま
建設中、2028年度の竣工予定
東急不動産・三井不動産・日鉄興和不動産
主なプロジェクト
日本橋一丁目東地区
いま
建築費高騰で約3年の遅れ(2034〜35年竣工の見通し)

日本橋エリア
各社がここまで力を入れる背景には、働く場所としての強い需要があります。三幸エステートによると、東京都心5区の大規模ビルの空室率は2026年6月末で1.11%。募集賃料は8か月連続で上がっています。土地の価格も、2026年の基準地価(都道府県地価調査)で東京の区部の商業地が平均13.3%、住宅地が8.7%上がりました。「この辺りで働きたい」「この辺りに住みたい」という需要は、数字の上でも崩れていません。
その中で、東京建物が11月4日に発表したのが「YNKエリア まちづくりビジョン」です。同社は1896年の創業から約130年、このエリアに本社を構えてきました。ビジョンが掲げる将来像は「潤環都市YNK」。都市の経済活動がまちの文化を育て、その文化がまた人と投資を呼び込む、という考え方です。
掲げられた4つの「意志」は次のとおりです。
- 世界から人と投資を引き寄せる
- 自分の居場所と感じられる都市をつくる
- 粋なつながりを継ぐ(山王祭などの伝統行事や、町人・商人の文化)
- 日本らしい目利きで世界に提示する
不動産の仕事をしている私には、この並びがとても興味深く映りました。大手がこれほどの資金を投じるのは、このエリアに世界から人と投資が集まると見ているからです。その一方で、このビジョンは「居場所」や「つながり」も同じ重さで掲げています。人がそこにいたいと思える街でなければ、価値は続かない。そう言っているようにも読めます。
この「投資」と「居場所」の関係は、そのままいまのマンション市場にも当てはまります。
いまの市場を数字で見る
結論から言うと、下がっているのは「都心」と「湾岸タワー」、頭打ちになっているのは「2億円を超える価格帯」です。首都圏全体や、1億円未満の物件は、まだ上がり続けています。
東京23区の中古マンション(70㎡換算、2026年9月)
価格
1億2,629万円
動き
前月比0.4%下落、4か月連続の下落
都心6区の中古マンション(同)
価格
1億7,786万円
動き
前月比1.6%下落、5か月連続の下落
首都圏の中古マンション(同)
価格
7,773万円
動き
前月比2.2%上昇、26か月連続の上昇
出典:東京カンテイ(2026年10月22日発表、共同通信・日刊不動産経済通信の報道より)

東京カンテイの担当者は、都心の高騰には「投機の動きが大きく影響していた」とし、首都圏については「実際に住むために買う人の需要で上昇してきた」と説明しています。そして今後は、「下落する東京23区と、上昇する23区以外で二極化する」と見ています(共同通信、同10月22日)。
ここに金利が重なります。日本銀行は2026年9月18日、政策金利を1.0%程度から1.25%程度に引き上げました。大手銀行の変動金利も上がっています。借りられる額が縮むと、「住宅ローンで買える価格」を大きく超えた物件から、買い手がいなくなっていきます。価格帯別の数字は、まさにその形を示しています。
湾岸はなぜ「値下げ」になっているのか
いま湾岸で起きているのは、売り出し価格を下げて買い手を探す「値下げ」です。そもそも湾岸の価格は、住む人の財布よりも、投資のお金と「まだ上がる」という期待で決まっていた部分が大きいと私は見ています。公表されている数字も、その見方を裏付けています。
- 価格は7年で約2倍:湾岸5地区のタワーマンションの価格は、2019年4月の約2倍の水準です(MFS)。土地の価格も、2026年の基準地価で有明1丁目の地点が17.0%上がり、都内の住宅地で上昇率上位に入りました。
- 投資のお金が入っている:湾岸だけの数字は公表されていませんが、国土交通省の調査では、2024年1〜6月に登記された新築マンションのうち、1年以内に転売された割合が東京23区で9.3%、都心6区で12.2%でした。2025年1〜6月に海外在住者が取得した割合は、23区で3.5%、都心6区で7.5%です。
- 売り物件がたまり始めた:中央区・江東区の湾岸で、売り出し価格8,000万円以上の中古の在庫は、2025年1月の約1,050件から2026年4月には約1,500件と、約1.5倍になりました(マンションリサーチ)。中央区のタワーマンションでは、住むための物件の在庫が増えて売れるペースが落ちているとも報じられています。
- 家賃はまだ上がっている:湾岸5地区の家賃は2026年1月から9月で2.9%上がり、利回りは2.76%から2.95%に改善しました(MFS)。価格が、家賃に見合う水準へ戻り始めているとも読めます。
ただし、これは「湾岸が崩れる」という話ではありません。マンションリサーチも「相場が崩壊している」のではなく、「過熱した価格形成が調整局面に入り始めた」と表現しています。価格が下がれば、これまで手が届かなかった住むための買い手が戻ってくる可能性もあります。

深川はどうなるか|調整はあるが、底堅い
深川の価格も、この数年で大きく上がりました。東京カンテイによると、江東区の中古マンションの相場は2026年上期で1坪547.1万円。半年前の504.0万円から約8.6%上がり、23区平均の8.3%を上回りました。ただし、この数字には豊洲や有明など湾岸も含まれ、深川だけの数字は公表されていません。
現場にいる私の実感では、深川は湾岸の価格に「つられて」上がった面があります。湾岸で値下げが広がれば、深川にもある程度の調整は来るでしょう。ただし、それは値下げ合戦ではなく、上がりすぎた分が落ち着く程度の調整だと見ています。そして、調整があっても深川の底堅さは変わらないと考えています。理由は3つあります。
理由1:主力の価格帯が「住宅ローンで買える範囲」にある
深川くらしでいま紹介している江東区内の中古マンションは、60㎡台の3LDKで約4,900万〜8,000万円が中心です。先ほどの数字で、いまも上がり続けている「1億円未満」の帯に入ります。投資と期待で上がった2億円超の帯とは、買い手の厚みが違います。新築マンションは、23区の平均が1億7,925万円(2026年度上半期、前年同期比34.7%上昇、不動産経済研究所)とさらに高く、「新築には手が届かない、でもこの辺りに住みたい」という人が、中古を探しています。
理由2:大手デベロッパーが、深川の実需に賭けている
大手が力を注ぐのは、橋の向こうだけではありません。野村不動産は、越中島一丁目で分譲マンション「プラウドシティ門前仲町」(総戸数667戸)を含む「TOKYO BLUE LINC」を進めています。販売開始は2026年11月中旬の予定で、予定価格は70㎡台の3LDKで9,700万円台から。問い合わせは10月12日までで4,660件にのぼっているそうです。約70年の定期借地権という条件もあり、投資よりも「住む」ための買い手が中心になると見ています。
理由3:再開発のすぐ隣で、「住みたい」理由がある
日本橋・八重洲には、大企業の本社や大規模なオフィスが集まります。一方で、そこに生まれる住宅はごくわずかです。東西線で門前仲町から日本橋まで2駅、永代橋を歩いても渡れる深川は、「働く場所のすぐ隣で、下町らしく暮らせる」という、ほかにはない理由を持っています。公園や商店街、祭りのある街です。居場所を求めて住む人たちがいる限り、価格の底はそこが支えます。
⚠️ それでも、気をつけたいこと
- 東京23区と都心の下落が、周りのエリアに広がる可能性が指摘されています。
- 深川の中でも、湾岸のタワーマンションと比べられやすい物件や、最近の高値で売り出された物件は、値下げの影響を受けやすくなります。
- 金利がさらに上がれば、「住宅ローンで買える価格」そのものが下がります。
「底堅い」は「下がらない」と同じ意味ではありません。下がる局面があっても、買い手がいなくならない。それが、いまの深川に対する私の見立てです。
いま買う人・売る人が見るべきこと
市場が「上がる一方」でなくなったいま、大切になるのは「相場」よりも「その物件の実力」です。
買う人へ
成約価格を見る
売り出し価格ではなく、実際に売れた価格を見る。値下げが増える局面では、両者の差が広がります。
返済を試算する
政策金利は1.25%まで上がりました。変動金利で借りるなら、もう一段上がった場合の返済額も試算しておきましょう。
次の買い手を想像する
将来売るときの買い手が、投資家ではなく「この街に住みたい人」である物件は、市場が揺れても売りやすい。
管理と修繕を確かめる
中古では、立地と同じくらい、管理組合の健全さが価値を左右します。
売る人へ
最高値を基準にしない
湾岸で在庫がたまったのは、売り手の期待と買い手が出せる価格のあいだにずれが生まれたからだと報じられています。
比べられる相手を知る
同じマンションや近所に売り物件が並ぶと、1件の値下げが周りに波及します。
街の良さを伝える
深川の買い手は「住む人」です。公園や商店街、祭り、日本橋への近さ。暮らしの具体的な絵が、価格の納得感につながります。
ここに書いたのは市場全体の見方です。個別の物件や資金計画の判断は、それぞれの状況で大きく変わります。
おわりに|編集長・柴田より
何年も上がり続けた市場が、ようやく「中身」を問われる時期に入ったように感じています。投資のお金が入れば価格は上がります。けれど、その価格を最後に支えるのは、その街で暮らしたいと思う人たちです。
東京建物が今回掲げたビジョンが「投資」と並べて「居場所」を掲げたのも、同じことなのだと思います。深川は、江戸の頃からその「居場所」を守ってきた街です。価格が揺れる局面でこそ、この街の本当の強さが見えてくるはずです。
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よくある質問(FAQ)
Q. 東京の中古マンション価格は下がっていますか?
A. 東京23区は下がり始めています。東京カンテイによると2026年9月の70㎡換算価格は1億2,629万円で、4か月連続の下落です。都心6区は5か月連続で下がっています。一方、首都圏全体は26か月連続で上昇しています。
Q. 湾岸のタワーマンションはどのくらい下がっていますか?
A. MFSの調べでは、勝どき・月島・晴海・豊洲・有明のタワーマンション45棟の3LDKの価格が、2026年1月から9月で約3.6%下がりました。ただし、2019年4月と比べると約2倍の水準です。
Q. 深川のマンション価格も下がりますか?
A. 湾岸のような大きな値下げではなく、上がりすぎた分が落ち着く程度の調整はあり得ます。ただ、主力の価格帯が住宅ローンで買える1億円未満にあること、大手デベロッパーが越中島で大規模な分譲を始めること、日本橋・八重洲に近いことから、底堅いと筆者は見ています。
Q. 東京建物の「YNKエリア まちづくりビジョン」とは何ですか?
A. 東京建物が2026年11月4日に発表した、八重洲・日本橋・京橋エリアのまちづくりの方向性です。「潤環都市YNK」を将来像に掲げ、「世界から人と投資を引き寄せる」「自分の居場所と感じられる都市をつくる」など4つの意志を示しています。
Q. 金利はどうなっていますか?
A. 日本銀行は2026年9月18日、政策金利を1.0%程度から1.25%程度に引き上げました。大手銀行の変動金利も上がっています。
【参考資料・情報元】
東京建物:YNK(八重洲・日本橋・京橋)エリアのまちづくりビジョン策定(2026年11月4日)
共同通信:東京23区、4カ月連続下落 9月、中古マンション価格(2026年10月22日)
日刊不動産経済通信:首都圏中古マンション価格26カ月続伸(2026年10月26日)
東京カンテイ:首都圏 中古マンション相場価格の推移(2026年9月1日)
マイナビニュース:湾岸タワマンは下落、2億円超で「頭打ち」に(2026年11月4日)
マンションリサーチ:湾岸タワマン市場は過熱から転換点?(2026年6月2日)
マイナビニュース:湾岸タワマンに異変?中央区で「売り物件」が増加(2026年9月14日)
nippon.com:東京23区の新築マンション、海外居住者の取得3.5%(国土交通省調査)
共同通信:日銀利上げ、1・25%に(2026年9月18日)
共同通信:新築マンション、1億1千万円超 首都圏4~9月(2026年10月20日、不動産経済研究所の調査)
Impress Watch:門前仲町に780戸の住宅と商業施設「TOKYO BLUE LINC」 野村不動産(2026年10月16日)
INVALANCE:2026年基準地価から読む東京の地価動向(国土交通省「令和8年都道府県地価調査」による)
三幸エステート:オフィスマーケット2026年7月号(6月末時点)
執筆者:柴田 光治
Webメディア「深川くらし」編集長/株式会社トラストリー 代表取締役
大手不動産会社グループで仲介・新築分譲・法人営業などを幅広く経験したのち、下町ならではの人のつながりと街の勢いに惹かれて深川エリアで独立。江東区・深川エリアに根ざし、地域のまちづくり動向や住まいの相談に日々向き合っている。



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