前回の記事(「不動産売買契約の「専属専任」「専任」「一般」の違いとメリット・デメリット」)で媒介契約における専任・専属専任契約時に「囲い込み」による不利益が生じる可能性について触れました。今回は、これまでにメディアなどでも取り上げられたことのある「両手仲介」や「囲い込み」という不動産業界の商習慣が、売主にどのような不利益を与えるかについて考えてみたいと思います。
目次
【1】両手仲介と片手仲介
両手仲介とは、1つの物件に対して1社の不動産会社が、売主と買主の仲介を行い、両者から仲介手数料の支払いを受けることを指します。一方の片手仲介は、1つの物件の売主・買主それぞれの仲介を別の不動産が行うケースを指します。両者を比較すると、両手仲介は一度の取引で不動産会社が2倍の手数料を得ることができ、片手仲介はそれぞれの不動産会社が得られる手数料は両手仲介の半分となります。
売主と買主を別々の不動産会社が仲介することで、売却活動の効率が上がりますので、売主の利益を最大化するためには両手・片手に関係なく仲介を進めなければなりません。しかし実態は、より多くの手数料収入が得られる両手での取引を最優先する傾向にあります。
ただし、この両手仲介を実現するためには、「より高く売りたい」売主の意向と「より安く買いたい」買主の意向が相反する(利益相反)ため、いずれかの意向を無視しなければ仲介は進みません。そこで、「囲い込み」と呼ばれる手法を駆使して、両手仲介を実現するケースが多くなっています。
【2】囲い込みの流れと売主が被る不利益
不動産会社が囲い込みを行い、両手仲介を実現させるまでの一般的な流れをご紹介します。
1)中古物件の売却査定で相場よりも高い価格を提示し、他の不動産会社が入ってきて片手取引とならないように「専属専任」「専任」契約を締結する
2)自社サイトには、査定した価格で物件を公開(相場よりも高いため問い合わせが少ない/無い)し、レインズ経由での不動産会社からの問い合わせには「売主の都合を確認中」「立会いが必要」「鍵が手元に来ていない」などのさまざまな理由で案内を先延ばしにする
3)売却が進まないことを理由に、売主に対して値下げを提案する
4)値下げ後の価格で問い合わせがあった買主との間で成約させ、双方から手数料を受け取る
囲い込みの問題点は、(2)によって早期に売却できる機会損失が発生することです。早期売却ができないことで、資金面の都合で不動産を売却する家庭・企業が破綻することや、売却代金で買い替えを行う場合は、買い替えの計画自体が破綻するといった不利益を被る可能性があります。
【3】法律による消費者保護の現状
囲い込みはモラルの面でグレーな部分があるものの、囲い込みを罰する明確な法律が無いため「違法ではない」とされているのが現状です。また、両手取引自体も違法ではありませんが、利益相反となることから、アメリカやシンガポールなどの諸外国では禁止としている国が多いです。
利益相反については、不動産取引ではありませんが、河野行政改革担当大臣が2020年12月に自身のブログ「ごまめの歯ぎしり」の中で「(主に中小企業の)M&Aにおいて、売り手と買い手の双方から報酬を得る仲介ビジネス(仲介型)は、利益相反の問題がある」と指摘しています。また、中小企業庁は「中小M&Aガイドライン」の中で、「売り手と買い手双方の一者による仲介は利益相反となり得る旨を明記し、両者から手数料をとっているなどの不利益情報の開示を徹底するなどリスクを最小化する措置を講じること」、「他のM&A支援業者などにセカンドオピニオンを求めることを許容する契約とすること」などを求めています。異業種での動きではありますが、不動産業界においても、今後法律による規制が強化されるといった方向性に進むかもしれません。
【4】まとめ
囲い込みを行っていることや、売主・買主の双方から手数料を得ていることなどの詳細が売主に開示されることはありませんので、囲い込みが法律的に違法ではなくてもモラルの面でグレーだと言えるでしょう。不動産会社の中には囲い込みを内規で禁止しているところもありますが、不動産会社の大手・中小を問わず「囲い込み」が現状も行われているのが実態です。次回の記事ではこういった現状に対して、不動産を売却する際に、物件を囲い込まれて不利益を被らないようにするための対策について解説したいと思います。
【書いた人】柴田 光治
株式会社トラストリー 代表取締役
リフォーム不動産深川studio 代表|深川くらし相談所 所長
宅地建物取引士、2級ファイナンシャルプランニング技能士、公認 不動産コンサルティングマスター
不動産業界歴35年以上。一部上場不動産会社在籍中に執行役員として売買事業を統括し、主に不動産流通に関わる。
50代で今の会社を立ち上げ、地域密着型の不動産会社としてお客様に寄り添ったわかりやすい提案を身上とする。自らも築20年の自宅マンションをリノベーションした経験を持つ。
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